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10 大学生活〜面白かった都会探索 麻雀が仕送りの足し

10-chino-0109.jpg ちょうど東大入学の年に破防法反対のデモがあり、これは面白いなと授業をサボって何回か参加しました。

 ある日友達から「お前、新聞に載っているぞ」と言われたんですよ。何かと思ったら東大新聞で学生デモの様子を報じていて、集団の中で2、3人の顔が判別できる写真が載っていました。その一人が私。今は笑い話ですが、当時は「デモ参加がバレたら就職に差し支える」と言われ、心配になりました。しかし、おかげで学生デモの雰囲気を知ることができたわけです。

ノンポリ学生が増加
 破防法反対デモはじきに終息してしまい、以降はいわゆるノンポリの学生が増えて労働運動もしだいに下火になっていきましたね。学生運動が本格的に盛り上がった60年安保闘争の時、私はすでにサラリーマンになっておりましたし、その後の暴力的な闘争には共感できませんでした。

 戦争に至る政治体制や民衆の意識という観点から歴史を勉強していたのですが、すると世の中が変わるということが容易でないことが分かります。もちろん革命なんかそう簡単に起こせない。

 1950年に朝鮮動乱が勃発しましたね。私にとっては重大事件でした。せっかく平和になったのにまた戦争か、と何ともやり切れなかったです。資本主義と共産主義の対決? 私は中学・高校時代、占領軍アメリカの敵国日本に対する寛容さに、もし日本軍がアメリカを占領していたらどうしただろうかと想像して、その懐の深さに敬服していました。そのアメリカが手の平を返したようにまた戦争。イデオロギーの恐ろしさを感じましたね。

勉強しない学生
 よく「今の学生は勉強しない」と言われますが、私もその勉強しない学生の一人だったと思います。

 田舎から東京に行ったわけですから、都会とは何かを知ることの方が学校の授業よりもはるかに面白いです。よくあちこち歩き回っていました。音楽喫茶でクラシックを聴き、美術館や寄席に行ったり。公務員試験も司法試験も受ける気はないので型どおりの勉強しかしない。社会勉強?の時間はたっぷりありました。

 上京一番、広告や看板の多さには驚きました。電車の中も沿線もビルの壁面も広告だらけ。都市の消費文化の象徴。もう闇市はなかったのですが名残はあって、新宿西口の安呑み屋街で労働者のおじさんなどと呑みながら、都会での人生経験を聞かせてもらいました。

 それから、友達とよく麻雀をやりました。当時の室内遊びの主流といえば麻雀。私は麻雀好きの親父から小学生のころから麻雀や囲碁を教わりました。親父が銀行の部下や友人を家に呼んで麻雀をやっている。人数が足りないと私も加わっていましたから、大学に入る前から強かったです。親からの仕送りには余裕がありませんから、勝つとたばこや夕食をおごってもらえて、いくらか仕送りの足しになりましたね。

 大学付近の池田屋さんがなじみの雀荘でした。お年のご夫婦と娘さんが一人。畳の部屋にテーブルの雀卓(冬は炬燵になる)が4つほどあり、娘さんもお茶出しなど手伝っていました。古びたラジオがあったのを思い出します。その後娘さんはお嫁にいったとか。
(聞き書き・北原広子)
(2010年1月9日号掲載)
 
茅野實さん