
しかし、新入生同然の未熟者が人事部に配属されたことはそれまでなかったので、何をやらせるのか決まっていなかったんです。
「何をしたらいいですか」と先輩に聞くと、「そのへんの本でも読んでろ」と言われて、3カ月くらい人事や経営の本や資料で勉強しました。
職員意識調査を実施
私は支店にいた5年間、上司や人事に対する愚痴をたくさん聞かされました。「出る杭は打たれる」のたぐいのアドバイスを受けるにつけ、八十二銀行には若さがない、戦前からの上司と戦後入行の若い人たちの間に断絶があるなあ、と感じていましたね。ですから人事部の様子が分かるにつれて、「八十二銀行は大丈夫だろうか」と心配になりました。
人事部長に「人事がうまくいっているのかどうかのデータがありません。実態を知るために職員の意識調査をやらせてください」と言いますと、「いいよ」と簡単に言われました。まだクチバシの黄色い者の提案も受け入れてくれるのかと意外でしたね。
調査の結果、行内の意思疎通が悪いことが分かりましたよ。当時、昇給や昇進がどんな評価基準でやられているか、一般職員には知らされていなかったんです。これは民主主義の社会でおかしいと思いました。
能力や実績を評価する基準を作って職員全員に知らせておかないと、せっかくの昇給や昇進が能力発揮につながらないですよね。
人が人を評価するというのは非常に難しいのですが、なんとか納得してもらえる方法を開発したいと思い、役員の許可を得て「評価の改善委員会」をつくりました。銀行の仕事全般に詳しい能力の優れた先輩7人に委員をお願いし、仕事をろくに知らない私は書記を務めました。
皆さん通常の業務をお持ちですから、委員会は業務終了後の6時ごろから深夜まで、ほぼ毎週開きました。仕事を全部洗い出し、それにはどの程度の能力が必要か、侃々諤々やるんですよ。これを2年近く続けて成案にしたんです。委員の先輩方の力量と熱意には敬服しましたね。
新評価制度作ったが
新しい評価制度の柱は「職場面接」です。これは「各人が今期特に力を入れたいこと数項目を目標カードに記載して、上司と一対一で話し合う。期末に目標の達成具合を話し合って納得ずくで評価を決める」というものです。
職場の活性化には画期的な方法ですが、面接に時間がかかるため、評定者の負担感が強く、なかなか定着しませんでした。
それから、評価の納得性が高まれば、給与体系にも能力色を出せると提案しましたが、従業員組合の同意が得られませんでした。
あれこれやっているうちに10年がたっていましたが、私が描いた能力主義の導入はほとんど実現できず、挫折感に浸りながら次の新宿支店へ赴任しました。それから15年くらいして能力や実力主義の考えが浸透してきた時、八十二銀行はいち早く採り入れましたから、私のやったこともまんざら無駄ではなかったなと思います。
(聞き書き・北原広子)
(2010年2月6日掲載)
(2010年2月6日掲載)