
お役所というと「民を見下す。融通が効かない。上役の顔色をうかがう。前例にこだわる。効率を考えない」などと揶揄されるんですが、行政の秩序や公平性・信頼性を維持するには、ある程度仕方がないのかなと感じましたね。
職員の方も仕事を離れて付き合うと、ほとんど民間と同じ。「話せる人」も多かったですよ。窓際族などという言葉もありますが、枢要な部署の課長さんなどは「県民の公僕」として高い見識を持っておられる方が多かった。予算編成時の財政課のように、冷たいの床の上で毛布一枚で仮眠して1カ月も頑張る人もいましたね。
これなら長野県庁は大丈夫だと感じました。ひとつ「民を見下す」というのは、今の行政には必要ない「官尊民卑」の旧弊です。一日も早く「主権在民」になってほしいと思いましたね。
芸は身を助ける
仕事の話が続いたので、少し遊びの話をしましょう。
私は小学生のころから親父に囲碁を教わり、銀行に入るころには初段くらいになっていました。銀行には碁好きがいて麻雀の傍ら囲碁もやっていましたが、本格的にやったのは新宿支店の2年間ほど。支店には麻雀仲間がいなかったので、それなら囲碁を-というわけです。
私は家族4人で中野の銀行アパートに住んでいたんですが、通勤の途中、中野駅近くに小さな碁会所を発見。ここに私より強い好敵手がいて面白いのなんの。通い詰めて4段くらいになったでしょうか。地方銀行協会の囲碁会の推薦で3段の免状をもらいました。
その後、長野に戻ってから、日本棋院主催の金融機関団体対抗戦に出ようということになって、八十二銀行の腕自慢5人で出ました。そうしたらBクラスで優勝したんですよ。うれしかったですね。近くの飲み屋で大乾杯。3段の私は5戦全勝で4段の免状をもらいました。
県の出納長さんは「頭の切れる取っつきにくい人」とのうわさでしたが、私は赴任早々から碁のお相手をさせてもらい、たちまち「碁仇」になりましたね。西沢知事も碁がお好きで、特にひとの対局を見るのがお好きでした。出納長と私の対局も何度か観戦に来られました。それから出納長さんに連れられて、普通ではお目に掛かれない検事正や県警本部長など囲碁好きの方々と親しくさせてもらったんですよ。
ゴルフがサラリーマンの社交に欠かせない時代になって、私も人事部のころから始めたんです。これは上達せずハンディ23止まりでしたが、それでも県庁の部課長さんなどと親しくなるのに大いに役立ちましたね。
ゴルフよりお酒
ゴルフよりもっと役に立ったのはお酒。これは業種や地位・年齢を問わず、お取引先と親しくお付き合いするための潤滑油でしたね。特に大勢の方とのお座敷では、私は一升ほど飲めたんで、注がれるお酒はお断りしない。座持ちが良かったのかもしれない。それから、頭取のお供をして、日銀総裁や大蔵省銀行局長さんたちのおめもじもいただきました。
(聞き書き・北原広子)
(2010年2月27日掲載)