
五輪は衆寡敵せず
長野五輪を言い出したのは当時の小林春男頭取でしたが、私は長野県には自力で五輪をやる体力はないと思っていたので「たかだか2週間のために数千億円使うより、もっと大事な使い道がある」と申し上げました。しかし、行内の大多数は招致に賛成で、衆寡敵せず(人数の少ないものは人数の多いものには勝ち目がない)。銀行を辞めてまで反対運動をする元気はありませんでした。
案の定、バブルが弾けてみると、好況時代の札幌五輪とは大違いで、国も最小限の資金しか出さない。あとは長野県が自力でやれと。
多額の資金援助をあてにしていた大手企業も、デフレ不況で五輪どころではない。私もJOCのメーンバンクや親しい都銀の頭取方に支援をお願いしたんですが、「八十二さんもご苦労さんですね。まあ頑張ってください」と言うだけ。結局、一地方銀行の八十二が多額の負担をさせられたんです。こんなことはほかの国にはないことですよ。
長野県も長野市も多額の借金をして今も苦しんでいます。たった2週間のお祭りのためにね。これもバブルに浮かれた報いですね。
副頭取を3年務めて頭取に就任しました。そして就任早々の頭取会の席上で、大蔵省の銀行局長が「東京の2つの信用組合が倒産しそう。銀行界で助けてほしい」と言ったんです。金融自由化以来、銀行も自己責任で経営せよと言っておきながら、何の関係もない信組を助けろと。
それから、銀行界の共同出資の住宅金融専門会社の整理でも「信連系の資金だけは銀行界で工面して返せ」と言ったんですよ。法もルールもない。これでも法治国家か、と腹が立ちましたね。とにかく大ごとにせず金融界だけで事を収めようとしたんですね。銀行界自体が傷んでいたのを大蔵省は知らなかったんでしょう。
金融恐慌避け大手術
そのうち、あちこちに金融機関倒産のうわさが出始め、政府も慌てました。「金融恐慌」だけは何としても防ごうと、不良金融機関は有無を言わせず政府の管理下に置く方策を採りました。荒っぽい手術でしたが、いつになく迅速に賢明な策を取ったと思いますよ。金融恐慌は、人体で言えば心臓停止の状態なんですからね。
大手術のために政府は70兆円くらい使ったと思いますが、経済が回復すれば大部分は回収できるし、金融恐慌の損失に比べれば何十分の一ですから。今回のリーマンショックの処理でも、関係国は日本政府と同じ方策を踏襲しましたね。
大手術の結果、大手の北海道拓殖銀行や山一証券が破たんして驚きました。さらに、まさかと思っていた日本長期信用銀行までが破たんして、八十二銀行は長銀の株式や金融債数百億円が紙くずになりました。私もバブルの深刻さを読み切れなかったんです。
(聞き書き・北原広子)
(2010年3月20日掲載)
(2010年3月20日掲載)