記事カテゴリ:

21 バブル崩壊〜一億総浮かれのつけ 金融機関冬の時代に

21-chino-0327.jpg 国民経済の基軸は、生活に必要な財やサービスを生産する実体経済(実業)であり、お金が動くと必ず生産が伴うものです。一方、実体経済では使い切れない余り金があると、生産を伴わない「値上がり期待」でお金が動くマネーゲーム(虚業)がはやります。

 現実には実業と虚業との境界は曖昧で、虚業の金に刺激されて実業も必要以上に拡大(仮需)しますし、余り金にあやかりたいと小金持ちまでが巻き込まれる。これがバブル経済ですよ。
 将来の実体経済がどうなるかは誰にも分からないので、現在の価格と値上がり(将来)価格との乖離が大きくなると、投資家は不安にかられて何かのきっかけで一斉に手を引く。こうしてバブルが崩壊するんです。

デフレ不況が心配に
 以前、私が経験した石油ショック直後のミニバブルでは、インフレ=現在価格の暴騰で将来価格とのバランスが回復したんですが、今回は政府が強力なインフレ防止策を取っているから、デフレ=将来価格の暴落で現在価格とのバランスが回復する。そしてデフレ不況になるな、と心配していました。

 1986年のニクソンショック(円高不況)を克服して、恒常的な貿易黒字による金余りが、地方都市にも広がっていました。そして88年ごろから企業を中心に、余り金を土地や株式、それにアメリカ発の金融派生商品などに投資する「財テク」がはやり始め、仮需(思惑)で実体経済も拡大しました。政府や大都市も思わぬ税の増収にほくそ笑み、一億総浮かれになりましたね。

 私は当時、本店営業部長で、行内の心ある人たちに「財テクの金は貸すな。いずれ痛い目に遭うから」と言いましたが、県内でも都銀が当行の取引先に財テク資金を売り込んでは「こんなおいしい商売をやらない八十二はバカだ」と言い、大蔵省の検査官までが「八十二は商売っ気がない」と言ったんですよ。

 しばらくして、「平成の鬼平」といわれた三重野日銀総裁がバブル退治に乗り出し、91年の春にバブルが弾けましたね。県内では軽井沢の土地が暴騰したほかは、さすが企業の皆さんは堅実で財テクには手を出さず、おかげで県内の金融機関もバブルによる損失は軽かったですよ。

 しかし、デフレの影響が次第に全県に及んで戦後最大の倒産が始まり、貸し渋り、貸しはがしなどとたたかれて金融機関は冬の時代になったんです。

ハゲタカファンド暗躍
 一刻を争う非常事態ということで、平常時ならば再建できたかもしれない銀行までを潰した政府の荒療治。続いて会社更生法をはじめ企業の再建整理に関する法律が変わり、関連の機構もつくられました。驚いたのはアメリカ発のハゲタカファンド(不良債権の買い取り会社)が活躍しだしたことです。

 大蔵省からは、一刻も早く不良債権を帳簿から消せと圧力がかかるし、担保を処分しようにも買い手が見つからない。やむを得ず捨て値でハゲタカファンドに売る。私はあまりの安さに、それならば不良債権を買う側に回ろうと買い取り回収の会社をつくり、信金さんなどの不良債権をハゲタカより少し高い値段で買わせていただきました。もうけは小さかったですが、職員に企業審査の力をつけさせる効果がありましたね。
(聞き書き・北原広子)
(2010年3月27日掲載)
 
茅野實さん