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03 フィレンツェ(イタリア) ダビデ像に魅了

03-kaigai-0410map.jpg "花の都"を意味するフィレンツェは、英語では「フローレンス」と呼ぶ。フラワーと同じ語源だ。かつてメディチ家が君臨したイタリアルネサンスの舞台でもある。

 フィレンツェは「街全体が博物館」ともいわれ、日本でも多くのコマーシャルに登場する。小高いミケランジェロ広場から遠望するアルノ川とベッキオ橋。その右手に"花の聖母教会"(サンタマリア・デル・フィオーレ)。私が最も好きな街だ。中心街には、ボッティチェリの「プリマベッラ(春)」「ビーナス誕生」やレオナルド・ダ・ビンチの「受胎告知」などの名画が集まるウフィッツィ美術館。朝から多くの観光客で門前市を成している。

 イタリアへのツアーでは、このウフィッツィ美術館は必ず訪れる。だが、もう一つの美術館は素通りしがちだ。入り口も地味だし、一つの作品を除き、素人の目を満足させる作品は多くないようだ。しかし、たった一つの作品に出合うだけでも価値がある。

 そこはアカデミア美術館。私はここを案内する時に、ある反応を楽しんでいる。まず、入り口から一人ずつ中に進んでもらう。右手に折れた瞬間、一人また一人「アッ」と口を開ける。その右手奥正面に立つ大きな作品こそが、ミケランジェロの名作「ダビデ像」だ。

03-kaigai.jpg ダビデはユダヤ王国を統一した初代国王。その息子が栄華を極めたソロモン王だ。シバの女王がソロモンに支援を求めたものの拒まれて帰った悲話も有名だ。後のキリストはダビデの子孫で、救世主メサイアだと期待された。ペリシテ人の大男ゴリアテに立ち向かった14歳の羊飼いのダビデが後に王国を建国し、栄華を極める礎を築いたことは旧約聖書にも記されている。ダビデ像が両手に持っているのは、左手が投石器、右手は石だ。やや不安そうに見詰めるその先には、ゴリアテがいる。14歳のはずのダビデは、まったくの成人だ。

 ミケランジェロは、こうした手法がお得意。バチカンにあるピエタ像も、50歳の聖母マリアはキリストの母親には思えぬほど若く彫ってある。周囲の批判などどこ吹く風だ。彼は従来の常識を覆す天才彫刻家だった。

 ダビデ像は生身の人間と思えるほど精巧だ。台座を含めると高さ6メートルにも。ダ・ビンチらの勧めもあり、屋内の自然光に照らされている美しいレイアウトにはうっとりしてしまう。傍らにはミケランジェロの肖像がある。彼は自分のルックスに劣等感を持ち生涯独身を貫いたが、それが逆に美少年・ダビデを生んだといわれる。

 この彫刻に魅了された後、近くのレストランに入り、アドリア海で捕れた手長エビ入りのパスタを食べた。興奮冷めやらぬ私は、アメリカから来た隣席の熟年夫婦との会話の中で「これまでは女性に恋をしたが、きょう初めて男性に恋をした」と"告白"してしまった。興味深く聞いていた夫は「うん。アメリカ人は皆ダビデに恋をする」と反応した。
(2010年4月10日号掲載)