記事カテゴリ:

05 アッシジ(イタリア) 聖フェランチェスコゆかりの地

05-kaigai.jpg 『ブラザーサン・シスタームーン』という映画がある。聖人フランチェスコと聖女キアラの生涯を扱ったもので、"清貧の思想"の原点が聖フランチェスコだ。

 アメリカ西海岸にあるサン・フランシスコは、スペイン統治時代に聖フランチェスコにちなんでその名前が付けられた。彼が活躍した舞台こそ、聖徒巡礼の町・アッシジである。

 アッシジはイタリア中部に位置し、サッカーの中田英寿さんが初めてイタリアに滞在したペルージャとは目と鼻の先だ。私は電車で昼前に到着。聖フランチェスコ教会の横にあるホテルに荷物を預け、すぐさま教会に入った。ルネッサンス絵画の先駆けとなったジョットのフレスコ画が楽しみだった。

 だが、この教会の持つ不思議な世界に魅入られてしまう。事前に学習していた知識を超える"何か"を感じたのだ。キリスト教徒ではない私にも、時空を超えた荘厳さ、厳粛さを肌で感じる。聖フランチェスコが無心で築いた、作意のない信仰力が宗派を超越するのだろうか。夕暮れに聞く鐘の音が心を洗う。

 彼は、12世紀後半の中世全盛期に裕福な織物商人の家庭に生まれ育った。金持ちの家庭にありがちな放蕩息子になったが、ペルージャとの戦争に参加し捕虜や病気になったことが彼を信仰に目覚めさせた。20歳を迎えたころ神の声を聞いたという。その声に従って、古い教会を建て直し始める。彼を慕う修道女キアラの献身が前述の映画になった。

 若きフランチェスコは、すべての財産を投げ捨てる。怒り心頭の父親を尻目に「従順・清貧・貞潔」を教義に全国を説教して回る。1210年にはローマ教皇が聖フランチェスコ会の設立を認可した。神の声を"まやかし"と片付けるのはやさしい。マザー・テレサは列車の中で「はっきりと神の声を聞いた」と言った。研ぎ澄まされた感性には、私たち凡人には不可知の声も聞こえるのかもしれない。

 彼の遺骸が地下に眠る。そして、ジョットのフレスコ画の連作「聖フランチェスコの生涯」があった。「貧しい人に外套を与えるフランチェスコ」や「泉の奇跡」「小鳥への説法」など鳥肌が立つような作品群だ。パドヴァのスクロベーニ礼拝堂にある「キリストの生涯」(ジョット)も見たが、前者の方が圧倒的に私の心に響いた。

 チマブエによる「聖母マリアとキリスト」に、彼の肖像画が描かれており、この顔が最も忠実に描かれていると伝えられる=写真。この絵にも、両手、両足と右脇腹にキリストと同じ聖なる傷(スティグマ)がしるされている。生前、彼の体に聖痕が現れたということから"キリストの再来"と呼ばれる。
(2010年4月24日号掲載)