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06 マドリード(スペイン) 陽気なラテン国

06-kaigai-0501map.jpg バルセロナがあるカタロニア州は訪れたことがあるのに、アンダルシア地方の中心地で首都のマドリードになかなか足が向かなかったのは、「ゲルニカ」を制作したピカソの影響も大きい。

 第2次大戦中、ヒトラーと手を組んだスペインの独裁政権フランコ将軍は、ナチスに依頼して北部のバスク地方ゲルニカを無差別空爆させた。その知らせを聞いたピカソは急きょ、怒りを込めて大作「ゲルニカ」を描き上げた。

 フランコの拠点はマドリードだった。私の大好きなアメリカの文豪ヘミングウェーの自叙伝的小説『誰が為に鐘は鳴る』も、フランコの横暴に抵抗する物語だ。そんな経緯があり、なかなか足を延ばせなかった。

 マドリードで1泊した後、南部のマラガから4日後に戻って、この大きな都市を3日間見て回った。治安の良い方ではないこの町の人々も、陽気で心優しい面を多く見せてくれたし、クリスマスイブの夜のマイヨール広場で楽しい人々との出会いが持てたことも新鮮な思い出だ。

06-kaigai.jpg トレドへの日帰りバス旅行をし、その翌日、待望のプラド美術館に向かった。クリスマスによる休館日明けというのも手伝って、入館には長蛇の列だった。待つこと2時間。その間に、テレビ局のインタビューを受けた。

 「スペインといえば、フラメンコやピカソ、パエリアですが、あなたはこの国に何を求め、何を感じましたか」

 「そうですね。ここプラド美術館には、ベラスケスの『ラス・メニーナス』やゴヤの『黒い絵』シリーズを楽しみに来ました。でも、一番の感動はスペイン人の陽気さ、人懐こさです」

 そう答えると、女性インタビュアーは狙い通りの反応だったのか、満面の笑顔でマイクを降ろした。翌日、これが放映された-と宿泊したペンションのオーナーから教えられた。

 確かにスペインには欠点もある。シエスタ(昼寝)の習慣などは、観光客にとって不便さも感じる。それでも観光客に対して迎合することなく、自分のスタイルを貫くしたたかさ。そしてラテン的明るさ。北のカタロニア地方と南のアンダルシア地方では全く違う気質。

 ゴヤ研究の第一人者でもあった作家の堀田善衛はかつて、「スペインの絵画の授業では、子どもが花の横に平気で電話器を置いて静物画を描く」というようなことを書いていた。日本人の常識はスペインでは通用しない。こうした発想の違いが、ピカソ、ゴヤ、ダリ、ガウディなど"破天荒な"芸術家を誕生させたのだろう。

 そういえば、"ラ・マンチャの男"ドン・キホーテも、スペインのセルバンテスによって書かれている。ナポレオンが「ピレネー(山脈)を越えればアフリカだ」と言ったように、スペインはヨーロッパでは地域的に異端だが、文化面では異彩を放つ魅力的な国だとつくづく思う。
(2010年5月1日号掲載)