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09 ブロア(フランス) ブロア城と親切なプチホテル

09-kaigai-0619map.jpg パリから南西に特急で1時間、ロアール地方の町トゥールに着く。「フランスの庭」と呼ばれる美しい田舎町だ。全長1012キロ、フランス最長のロアール川流域に14もの雅な古城が東西に分かれて立っている。

 2005年にパリから日帰りツアーをし、シュノンソー、シャンボール、ブロアの城を見学した。ここは新婚旅行や熟年旅行の定番コース。2年後の2007年暮れには7人を連れての再訪だった。

 マドリードから夜行寝台列車でフランスに向かい、早朝6時、ロアールの一角・ブロアに到着。この日宿泊予定のトゥールには午後に行く。翌日はシャンボール、シュノンソーの各城を再訪した後、シュベルニーとアンボアーズの古城へのバスツアーを予約してある。

 なぜトゥール駅を通過して、ブロア駅で下車したのか。それは、2年前に時間の制約で(1)城の内部を観覧できなかった(2)ロアール川対岸からのブロアの町が忘れがたいほど美しかった-からだ。

 冬のヨーロッパは朝が遅い。6時ではまだ暗い。待合室で時間をつぶすが、ブロア城の開門は9時だ。あと3時間もある。小さな駅で、駅前はローカル駅らしい静けさである。

 斜め向かいに古びたカフェが1軒。交代で荷物の番をして、モーニングコーヒーを飲みに行く。カフェは地味でいかにも地元客が使いそうな雰囲気だ。奥行きがあり、座席数はカウンターを含めて40から50ほどはあった。温かいカフェオレを家内と飲みながら、昨夜の夜行列車やスペインでの印象などを語らいつつ、あることを思いついた。店番をする30代の青年は英語もしゃべれるし感じも良い。思い切って『荷物を一カ所に固めて3、4時間ほど預かってもらおう』。むろん、しかるべき謝礼は出すつもりだった。

 「すみません、私たちは日本から8人で来ました。ブロア城を見学してトゥールに向かいますが、ブロア城は9時のオープンです。大きな荷物を運んでいくのも大変なので、見学している間、店の隅に預かっておいてくれませんか。むろんお金は払います」

09-kaigai-0619.jpg 青年は首を振った。「ここは知らない客も来る。目が届かないし責任が持てない。残念だけど無理だ」。彼の言う通りだ。「あそこに見えるホテルにお願いしてみたら」。断られるのを覚悟で、家内と向かう。フロントにいた主人はこわもての感じ。恐る恐る尋ねた。主人は英語がしゃべれないので2階の奥さんを呼ぶ。奥さんは流ちょうに英語を話す。用件を知ると快諾。ホテル横の別室に案内して「ここでいいでしょ? お金なんか要らないわ」。感激! 駅の待合室にいる6人に朗報を伝えて、ぞろぞろとそのホテル「サボア」に。こぢんまりしたプチホテルだ。「ゆっくりお城を楽しんでいらっしゃい」

 ブロア城内を見る価値はあった。後期ゴシック、古典様式などが施され、まるで建築博物館だ。フランソワ1世の象徴「火を噴くトカゲ」の紋様が多い。1588年ギーズ公暗殺のフィルムも見られ、大満足の2時間だった。

 ホテルに戻る。ママさんがニコニコして迎え、お金は拒んだ。「今度こちらに来た時はうちに泊まってね」。代わりに貼る温湿布"をあげた。帰国後の礼状への返事に「あの温湿布はよかった。こっちには、こういうものはないの」。さっそく1箱送ることにした。
(2010年6月19日号掲載)

(写真)大量の荷物を無料で預かってくれたブロア駅前のホテルで(後列右から2人目が奥さん)