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086 山王の森(上)〜"お化け屋敷"は日吉社の跡

86-rekishi-0101-02.jpg 北石堂町にケヤキの巨木(市保存樹林)が数本立ち並ぶ一角がある。通称「山王の森」「お化け屋敷」は市内の小学生には気になる聖地だった。

 「大蛇が棲む」「池には大ナマズが...」「ヒヒの巣がある...」とうわさはエスカレート。放課後、級友と連れ立ち見物に遠征したことがある。男子は自慢したいために、竹の垣根の下から潜り込もうと試みた。現実は「コラ!」と一喝>され、逃げ出すのが落ちだった。

 最近になって郷土史家から「あそこは栗田神社の飛び地ですよ」という話を聞いた。お化け屋敷は神社だったとすれば納得がいく。巨大な古木があるのは神社の習いだからだ。

86-rekishi-0101-01.jpg 近くの元パン店主人・内山貴志さん(北石堂町副区長)は「屋敷の庭の南隣にあった中島医院はトンガリ帽子のあるモダンな西洋館で、母校の山王小学校から写生に出かけたものです」と思い出を語る。医院の建物は旧国鉄の集会施設「紫雲寮」になったといえば思い出す人もあろう。 

 「私、実は戦後あのお化け屋敷で育ったのよ」という女性がいたので驚いた。中島医院の孫娘の五条貴美花(本名高坂朝子)さん。近年、「動書」で国際的にも活躍している書道家だ。

 「では、大蛇やナマズ、ヒヒと一緒に育ったの?」と聞くと「馬鹿だねー。冗談もいい加減におし!」としかられた。史料を調べると、県史編纂で功績のあった故塚田正朋さんは「山王の森は栗田氏の勧請した日吉社のあった場所」と記述。中世史の笹本正治信大人文学部教授は「栗田村の飛び地・妻科村(現大字長野山王)にあった日吉山王社は、栗田氏=善光寺平の豪族=が戸隠の本寺である比叡山の守護神を勧請したもの」と解説している。
(2010年1月1日号掲載)



 
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