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20 耐震偽装問題〜一番大変な時期に建築士会連合会長 

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 中学時代の同級生で地理学者の市川健夫君には「君は本当に建築の虫だ」と言われましたが、まったくその通りで、何を見ても建築家としての見方が身に付いてしまっています。

 建築家というのは、いわば人の家、人の土俵で自分の仕事をしているようなものです。お施主さんがいて初めて仕事が生じ、基本設計、実施設計と進め、建築や設備などいろいろな職務の大勢のスタッフと協力しながら全体の監理を行い、最後はきちんとした形にして差し上げるのがルールです。どこかで手抜きがあっては、きちんとしたものはできません。

 手抜き見抜けずに
 それが一般の皆さんにもよく分かる形で表れてしまったのが「耐震偽装問題」と呼ばれた事件です。構造計算書を偽装していたことを、建築確認をする機関が見抜けずに許可したため、耐震基準を満たさない建物が建っていたことが明るみに出ました。

 この騒ぎの起きた2005(平成17)年は、私がちょうど(社)日本建築士会連合会の会長を務めていた時です。会長職にはずっと建設省のOBとか元議員さんなんかが就任していたのを、それじゃあ建築士の民間団体としていかん、民間でリーダーシップを取るべきだという声が出てきて、私などもバックアップしてやっと民間の建築家である菊竹清訓さんに就いていただき、私が副会長をしていました。

 ところが菊竹さんは2年で辞められました。それで私が8代目の会長になった。投票によって決まった初めての会長が私ということで、とにかく民間が会長という流れはできたんだから、会員10万人を超える職能団体として認知度を高めるにはどういう組織にするかなどを考えていこうと思った矢先に、この問題が発覚したのです。

 それからはもう、私の建築家人生の中で一番大変な時期でした。一体、建築士は何をしているんだ、ということで国土交通省に呼ばれる、国会での意見陳述がある。それだけではなくて、党派別にも呼ばれて質問されたり説明したり、マスコミの取材もひっきりなしです。

 実は私は、この問題について「心配していたことが起きたな」と感じました。建築という長丁場のプロセス全体を100とすると、構造計算というのはたったの20くらいの量しかないわけです。あとは現場の作業に入ってしまう。

 仕事の分担細かく
 すると、どうしても短い時間で数をこなそうってことになりがちですよね。私の事務所では構造計算の部門があって一貫した設計の態勢を取っていますが、建築事務所がすべてそうできるわけではありません。それどころか基本設計はここ、実施設計はここと、別々に発注されることも珍しくありません。

 あの時に偽装された構造計算書は、分かる人が見るとすぐおかしい、と気付くものです。私も図面はすぐに見まして、直ちに分かりました。ところが仕事の分担が細かくなると、流れ作業みたいになって最終的な責任がはっきりしなくなってしまうのです。

 「姉歯さん」という方は一級建築士ですが、建築士会には所属していませんでした。地方では加入率が高いのですが都会は低い。せめて会員だったらどういう人か調べることができますが、それもできませんでした。
(聞き書き・北原広子)
(2009年2月28日号掲載)

=写真=参院国土交通委員会で参考人として意見を述べる宮本さん
=2006年1月20日付信濃毎日新聞(写真は共同通信提供)

 
宮本忠長さん