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21 松本市美術館〜町の特徴を強調し 75歳で芸術院賞に〜

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 70歳過ぎといったら会社員ならとっくに定年退職している年齢です。でも建築家の仕事というのは経験を重ねるほどに磨かれる面があり、私にも70代になってからの代表作というのがあります。草間彌生さん作のカラフルなオブジェが目を引く松本市美術館です。

 こちらもコンペ方式で競われました。東京の有力事務所ばかりで、地元信州からの参加がないのでは良くないだろうと、私どもに声が掛かったものです。何しろ強豪ばかり10社ですからね。1次選考で絞られた5社に残っただけでも、びっくりしたくらいなんです。

 ここまで大規模な美術館というのは経験がなく、私にとっても新たな挑戦でした。

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草間アートも
 最終的に私どもの案が選ばれた理由の一つには「松本らしさ」がありました。こういう点が評価されるのは本望ですね。私にとって松本は、さほどなじみのある場所ではなかったものだから、敷地の周辺を何べんも歩いてみました。そして一見、平に見えますがかなりきつい勾配があることが分かって設計に生かしましたし、町の特徴である蔵を取り入れるアイデアも浮かびました。

 道路に面する表側は都市的に、裏側は生活感の漂う住宅地という全体的な構想も、何度も歩いて松本の風土を感じた中から浮かんできたものです。

 そして、松本市の象徴ともいえる「あがたの森」と駅を直線で結んだ中間あたりに位置することから、「森の美術館」というコンセプトを打ち出すことにしたのです。

 美術館というのは開口部を大きく取れないので外壁の色が印象を左右します。松本城の別名が「烏城(からすじょう」でもあることから、私としてはチャコールグレー、炭の色が松本の色だろうとイメージし、厳しい寒冷から建物を守る、中信地方に特徴的な「飛沫除け」を外壁に施すことにしました。

 ところが、だんだん建物が仕上がってきてネットが取れたら、一部の市民から不満の声が出たのです。外壁の色が暗すぎるということでした。ただ、後に彫刻や常設展で関係することになった草間彌生さんや故・米倉守館長にはこの色を褒めていただき、ほっとした次第です。

 美術館のアプローチは草間さんの作品「幻の華」で飾られ、見事です。草間さんは「我が故郷」というイメージで作品を設置されたのでしょう。草間アートに松本の市民は喜んでいます。

宮中賜茶会に緊張
 松本市美術館が完成したのは私が75歳の時です。この作品で日本芸術院賞を頂くことになりました。 受賞者は「宮中賜茶会」に招待されます。緑したたる皇居内の静けさは格別で、自分がどこにいるのか分からなくなるような不思議な感覚に襲われました。

 賜茶って何かと思っていたら、フランス料理の会食で、私ども各分野の受賞者が1テーブル当たり3、4人着席して料理とワインをいただいておりますと、天皇皇后両陛下、皇太子、三笠宮さま方が、各テーブルを移動しながらお相手くださるわけです。皇后さまは「小布施はどんな町ですか。栗羊羹がおいしいですね」と、気さくに声を掛けてくださいました。
 あんなに緊張して自分らしくないひとときは、これまでの人生で初めてでしたね。
(聞き書き・北原広子)
(2009年3月7日号掲載)

=写真1=「森の美術館」をコンセプトに
=写真2=完成式で草間彌生さんと有賀市長(当時)と
 
宮本忠長さん