記事カテゴリ:

05 「フランティック」(1988年) 〜英語を学ぶにはどんな映画?

 Q 映画で英語を学びたいのですが、どんな映画がいいですか?

 A ジョージ・ロイ・ヒル監督の『リトル・ロマンス』の中で、フランスの少年がアメリカの少女に言うように、「学校でも習ったけど、ほとんど映画で」なんてことも夢ではありません。映画での学習の利点は、単語や熟語、文法を生きた状況の中で理解できる点です。

 ただ、映画は劇的な状況を描いているわけですから、日常的な場面にすぐに応用が利くわけではありません。警察用語とスラング(卑語、俗語)ばかりのアクション映画を丸暗記しても、ロサンゼルスの刑事のような仕事でもない限り、役には立ちません。

 どんな場面で英語を使いたいのか、留学が目的なら、キャンパス・ライフが登場する映画。旅が目的なら、ホテルや空港の場面が多い映画といった具合に、条件に合った映画を選ぶのが肝心です。

 個人的な経験から言うと、外国人がしゃべる場合は、少し古い教科書的で端正な英語の方が好感を持たれるような気がします。米国映画なら1960年代前半までの映画がいいでしょう。倫理規定があったので、まず、汚い言葉は出てきません。

 もっとも、外国語下手は、アメリカ人もかなり定評があります。

 例えば、ロマン・ポランスキー監督の『フランティック』(88年)で、ハリソン・フォードが演じた医師リチャードもその一人。妻と共に学会でパリを訪れますが、滞在中のホテルから妻が忽然と姿を消してしまいます。フランスの警察もアメリカの在外公館も頼りにならず、手掛かりを求め、妻とスーツケースを取り違えたエマニュエル・セニエ演じるミシェルという女性と接触するのですが...。

 ヒッチコック風の典型的な巻き込まれ型国際陰謀劇ですが、ポランスキーらしい色彩で、ハリソン・フォードがスピルバーグ的ヒーローとは一味違う、等身大、生身の人間を木訥に演じています。

 セニエの不思議な存在感と印象的な音楽が醸し出す雰囲気とともに、観客はフランス語の不得意な主人公の不安に自己同化していきます。異国にあって、意思が通じないもどかしさ、孤独、焦燥感といったものに、自身の体験が重なるからかもしれません。

 不安を抱えてさまようとき、美しいパリの街は全く違った素顔を見せることになるのです。

 確かに映画は最適の語学教科書です。でも、どんな良い教科書を使っても、語学学習に汗と涙は欠かせません。成功への鍵は、苦労を楽しいと思えるかどうかに尽きるでしょう。
(2009年9月5日号掲載)
 
キネマなFAQ