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12 「ピアノ・レッスン」(1993年) 〜女性監督作品の特徴は?

 Q 女性の映画監督の作品には男性監督とは違う特徴が何かあるのでしょうか?

 A 今年のアカデミー賞で初めて女性が監督賞を受賞しました。残念ながら、映画の世界はまだまだ男性優位の社会のようです。80年を超えるアカデミー賞の歴史の中で、監督賞にノミネートされた女性を数えるには、片手の指で足りてしまうのです。最近、日本でも河瀬直美さんや西川美和さんら女性監督が活躍していますが、多くの女性の前には伝統社会の厚い壁があったことでしょう。

 映画は総合芸術ですから、監督が女性だというだけで、映画がすべて女性の目線で描かれるというわけではありません。例えば、今回初受賞に輝いたキャスリン・ビグロー監督の代表作『K-19』はロシアの潜水艦の話で登場人物は男ばかりですから、監督が女性だと意識する観客はあまりいないだろうと思います。

 一方、これは女性の監督の作品だと男性が意識せざるを得ない作品もあります。数少ないアカデミー監督賞候補となったジェーン・カンピオン監督の『ピアノ・レッスン』(1993年、フランス、オーストラリア、ニュージーランド合作)もそうした作品の一つです。

 19世紀後半、ホリー・ハンター演じるエイダは娘(アンナ・パキン)を連れて欧州から嫁入りのためにニュージーランドに渡ります。口のきけない彼女にとって掛け替えのないピアノと共に。しかし、大事なピアノは無理解な夫(サム・ニール)のせいで、ベインズという風変わりな男の手に渡ってしまいます。男はピアノのレッスン1回ごとに1鍵ずつピアノを彼女に返すことを提案し、レッスンが始まります。やがて、レッスンは2人にとって特別なものに...。

 思わず目を奪われる斬新な映像に、マイケル・ナイマンの音楽。アカデミー主演女優賞、助演女優賞を受賞した2人の女優たちはもちろん、ベインズを演じるハーヴェイ・カイテルの圧倒的な演技。映画史に残る傑作です。

 この作品は、ショッキングな内容を含むにもかかわらず、公開当時から多くの女性の支持を得ました。理由は、その官能性が男側からの紋切り型のものではなく、女性の皮膚感覚に近いものだからかもしれません。もし男性監督が撮ったなら、スカートを膨らませるための骨(クリノリン)の描き方一つでも印象の違ったものになっていたでしょう。

 個人的には性差を絶対視する考え方には賛成しませんが、この映画に見る限り、監督が女性であることが、作品の質に何かしら影響していると言えるかもしれません。
(2010年4月3日号掲載)

『ピアノ・レッスン』発売・販売元/紀伊國屋書店 3990円
 
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