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15 「大江山酒天童子」(1960年) 〜日本の神話や伝説を題材にした映画にはどんなものがありますか?

15-cinefaq-0703.jpg Q 最近ギリシャ神話に関する映画を続けて見ました。日本にも神話や伝説を基にした映画がありますか?

 A 聖書とギリシャ神話を素材とした映画は、「Sword and Sandal」(剣とサンダル)といった名前で呼ばれます。似たような言葉に、「Sword and Sorcery」(剣と魔法)というのがあります。この用語はアニメーションやゲームの世界でもよく使われています。

 ハリウッド製「剣と魔法」ものの例には、シュワルツェネッガーの『コナン・ザ・グレート』(1982年)やリチャード・ドナー監督でミシェル・ファイファーとルトガー・ハウアーが共演した『レディ・ホーク』(85年)などが挙げられるでしょう。

 アニメ以外にも日本映画の「剣と魔法」は存在します。例えば、『笛吹童子』(54年)、神話ものでは八岐大蛇(やまたのおろち)も登場する『日本誕生』(59年)などが思い浮かびますが、お薦めは、『大江山酒天童子』(おおえやましゅてんどうじ)です。

 栄華を極める関白藤原道長(小沢栄太郎)が寵愛する渚の前(山本富士子)に怪異が出没。関白は難を恐れて、女を源頼光(市川雷蔵)に下賜するのですが、その女性こそ大江山の鬼、酒天童子(長谷川一夫)が求め続ける妻であり...。

 当時の日本人なら、誰もが知っていた「大江山の鬼退治」、酒呑童子や茨木童子ら鬼の物語を素材に自由な発想で書かれた川口松太郎の原作を田中徳三が監督した作品です。長谷川一夫、市川雷蔵の両看板を筆頭に頼光四天王渡辺綱に勝新太郎、同じく坂田金時に本郷功次郎、加えて、歌舞伎の重鎮・中村鴈治郎。女優陣には、山本富士子、左幸子、中村玉緒らが並ぶ豪華スター総出演絢爛絵巻です。

 次々に現れる妖怪変化は、CG時代以前の特撮ファン必見。撮影は今井ひろし。団塊世代なら『赤胴鈴之助』を撮った人と言えば分かるでしょうか。

 若い世代の人がこの映画を見ると、何か新鮮な感じがするのではないかと思います。唐突に始まる歌と踊りのミュージカル的場面。外国映画から出てきたようなキッチュな妖怪たち。能や歌舞伎の伝統を意識した古典的な所作やせりふ回しの中に突然挿入されるリアリズム。今ではまず見られない美麗な衣装。そして、見終わった後、この荒唐無稽な娯楽映画が権力や政治運動に対する一種の風刺になっていることに気付くでしょう。

 映画が作られたのは、いまから50年前の1960年。日本中が日米安保条約をめぐって激しく揺れた年です。権力にまつろうことなき鬼たちの物語は当時の社会状況と無縁ではなかったはずです。
(2010年7月3日号掲載)

「大江山酒天童子 デジタルニューマスター版」、4725円  発売・販売:角川映画
(C)1960 角川映画
 
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