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16 「アルマゲドン」(1998年) 〜知らないうちに何かを刷り込まれる

 Q ロマンス映画を見ているつもりなのに、知らないうちに何かを刷りこまれていることがあるって本当ですか?

 A はい、本当です。典型的な例として『カサブランカ』(マイケル・カーティス監督、1942年米国)が知られています。欧州の戦争を背景としたラブ・ストーリーですが、かつてスペイン市民戦争の義勇軍で戦った失意のアメリカ人が個人の思いを超えて、再び世界の大義のために立ち上がる姿は、第2次大戦に遅ればせに参戦するアメリカ国家の姿であり、参戦が崇高で英雄的なものであることをアメリカ国民にアピールするものでした。

 批評家の酷評にもかかわらず大ヒットした『アルマゲドン』(マイケル・ベイ監督、98年米国)は、9・11の前につくられたので、地球の中にアメリカの敵はおらず、脅威は地球にぶつかる巨大な隕石です。

 人類滅亡の危機に、ブルース・ウィリスが演じる油田掘削のプロ、ハリーは、ひと癖ある掘削チームを率いてスペースシャトルに乗りこみ、隕石破壊に向かいます。

 CG満載のスペクタルシーンとは別に、ハリーの娘(リブ・タイラー)とチームの一員A・J・フロスト(ベン・アフレック)との恋人同士の別れ、チームの友情、ハリーの自己犠牲や家族愛に、結構グッときたという人もいたと思います。

 ただ、その場合、感動と同時に、「世界を救うのはアメリカで、核兵器はまさかのときのためにはやっぱり必要だ」というメッセージを無意識に受け取っているかもしれません。

 映画の作り方と見方は、時代の価値観や気分と密接に結びついています。『ランボー』(テッド・コチェフ監督、82年米国)は一種の反戦映画でしたが、時代の雰囲気を反映して、続編からは戦争肯定のアクション映画になってしまいました。

 今年生誕100周年の黒澤明監督作品『一番美しく』(44年)は、若き女子挺身隊員の群像をドキュメンタリータッチで描いた佳作ですが、当時は、国民に滅私奉公を促す国策映画です。現在では、これを反戦映画と評する人さえいます。

 黒澤監督は戦後、一貫して核の恐怖を描きました。『生きものの記録』(55年)と、『八月の狂詩曲』(91年)は、原爆投下から65年目の夏、ぜひ見直すべき作品でしょう。実はアメリカで極めて評価の高い黒澤明ですが、この2作品への評価はあまりに低いのです。映画にもやはり国境はあるようです。『カサブランカ』もモロッコやフランスの人には楽しい映画ではないですしね。
(2010年8月7日号掲載)
 
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