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18 「扉をたたく人」(2008年) 〜題名が内容と違ったりしますが?

18-chinefaq-1002.jpg Q 映画の題名が内容と違っていることがよくあるように思います。なぜですか?

 A 外国映画が日本で劇場公開される時、大抵、配給会社が邦題を付けます。

 外国語の原題を日本語に訳すことになりますが、そのまま訳すと分かりにくい場合は意訳が必要になります。

 例えば、ジャン・ピエール・メルビル監督の『いぬ』(1962年)のフランス語原題は『LE DOULOS』です。単語の意味としては帽子ですが、映画冒頭の説明では警察への内通者を示す裏社会の隠語とのこと。それで、帽子から『いぬ』。漢字を使わずに仮名書きしたところも工夫でしょうが、冒頭の説明を忘れた観客はラストの帽子の意味を見落とす可能性もあります。

 もっとも題と内容の不一致は、翻訳上の問題より、ビジネス的な意図による場合がほとんどでしょう。

 例えば、『愛と青春の旅立ち』(82年)。中年の人にはすぐに名場面が浮かぶと思いますが、英語原題は『An Officer and a Gentleman』。これは、英米の軍法で、将校や士官候補生は、軍律上の責務とともに人としての誇りと品行方正な行動を求められていることを示す表現です。邦題は「軍隊もの」のイメージを避け、甘いマスクのリチャード・ギア主演の青春ラブストーリーとして女性客を引き付けたいという意図だったのでしょう。

 同じパイロット養成の話でも、トム・クルーズの代表作『トップ・ガン』(86年)の場合は、原題がそのまま、カタカナ化されています。熟語の意味とは別に、トップもガンも日本語化しているからでしょうが、ケリー・マクギリスとのロマンスより、空中戦の迫力を楽しみたいというテストステロン旺盛な観客を想定していたようです(ちなみに、この映画の飛行機はCGではなく、アメリカ軍が全面協力した本物です。冷戦下、軍のPR機能も持った映画でした)。

 アクション俳優スティーブン・セガール主演作が何でも『沈黙の〜』にされてしまうのは極端な例ですが、過去のヒット作に似せて集客を狙う場合や、逆に混同を避けて原題から少し離れる場合もあります。

 本日のお薦めはその後者でしょうか。孤独な大学教授の、ジャンべという太鼓をたたく移民の青年とその家族との交流を描き、昨年のアカデミー賞候補となった佳作。原題は『the Visitor』ですが、邦題は「訪問者」ではなく、『扉をたたく人』。こちらの方が深く内容と響き合っていると思う人が多いかもしれません。
(2010年10月2日号掲載)

『扉をたたく人』発売・販売元/東宝 4725円 DVD発売中


 
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