記事カテゴリ:

09 「釈迦」(1961年) 〜映画館でと家での違いは?

 Q 映画館で映画を見るのと家で見るのでは、どんな違いがありますか?

 A 少し前なら、テレビ画面は縦横比が3対4。ビスタサイズの映画だと両端が切れてしまいました。テレビの普及に危機感を持ったハリウッドの映画会社が、テレビでは味わえない迫力を意識して製作した『ベン・ハー』(1959年)のような超大作の場合、「半分切れていちゃ、迫力ないでしょう」と言えました。なにしろ70ミリ。通常の35ミリの横2倍のワイド画面ですから。

 70ミリといえば、日本映画最初の70ミリ作品をご記憶でしょうか?三隅研次監督の『釈迦』(61年)です。市川雷蔵、中村玉緒、勝新太郎といった大映の看板スターが総出演。主役は、当時売り出し中の本郷功次郎。宗教的素材を扱ったのは、ハリウッドが『聖衣』や『十戒』のような聖書世界の歴史絵巻で勝負したのを意識したからでしょう。まだCG技術がない時代、日本映画の職人たちの「限られた製作費でワイドスクリーンに、いかに迫力ある場面を描き出すか」への果敢な挑戦でした。

 タイトルどおり、お釈迦様の物語(話が史実と違うのは大目にみてください)。菩提樹の下での「成道」を描いた部分を、ベルトルッチ監督の『リトル・ブッダ』(93年)と比べてご覧になると面白いと思います。

 近ごろのデジタルテレビの縦横比は9対16。ヨーロッパ方式のビスタサイズなら問題なし。アメリカ方式、さらにワイドな画面へも簡単に調整が可能。しかも、高解像度の美しい画面の対角線の長さは40インチ以上で音響も多チャンネルサラウンドとなると、家庭の方が下手な映画館より迫力があるなんてこともあるかもしれませんね。

 それでも映画館で映画を見るのと家でDVDを鑑賞するのでは大きな違いがあります。違いは、薄暗い映画館の中で見ず知らずの人たちと時間を共有する楽しみです。ざわついていた場内が静まり、人々が画面に集中していく。やがて、劇場中が笑いに包まれ、息をのみ、手に汗し、あるいはそっと目頭を押さえたりするのが伝わってくる。その感覚こそが映画館の醍醐味です。

 1893年、米国でエジソンが発明した(ということになっている)キネトスコープは一人で箱をのぞく装置でした。2年後のフランスでのリュミエール兄弟によるシネマトグラフの発明こそが真の「映画誕生」とされる理由は、大勢がスクリーンを共有する上映方式が生み出されたからにほかなりません。

 新年も映画と映画館、そして本コラムをよろしくお願いします。週刊長野まで質問をお寄せください。
 
キネマなFAQ