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110 長勝寺 〜売られた哀話持つ仁王像〜

110-rekishi-0212p1.jpg 「仁王さんにも哀話があります」
 「へえー、あのたけだけしい仁王さんに」

 信更町三水の長勝寺(ちょうしょうじ)にまつわる伝説だ。
 犀川の渓谷を挟み対面する虫倉山(旧中条村)の山麓には、住民が観音様を奉ずる廣福寺(こうふくじ)がある。飢饉続きで年貢も払えない窮乏の時代。鳩首会談の結果、村唯一の宝であるその寺の仁王像2体を売ることになった。

 「立派な出来」という評判を聞き、松代の某寺との間で売買が決まり、仁王像を牛車で運んだ。しかし、いったん渓谷に降り急坂を登る途中、牛が力尽きて倒れた。途方にくれた村役たちは、近くの山寺・長勝寺に預かってもらった。

 「仁王さんを売るなんて、罰当たりなことをした...」

 「観音さまの守護役を解かれ、売られるなんて仁王の本意(ほい)でないから、怒りなすった...」
 そんな風聞が立って売買話は沙汰やみに。長勝寺の住職は放置された仁王のために仁王門=写真下=を建てたという。

110-rekishi-0212p2.jpg 参拝して驚いたことには、参道の石段を上り、仁王門をくぐると見えるのは本堂ではなく、壮大な虫倉山が迫る。「前方の山麓の左手に小さくお寺が見えるでしょう。あれが廣福寺です」と住職の東山豊純(ひがしやまほうじゅん=28世)さん。仁王像は10数キロも離れたこの地から、旧地の観世音をけなげにお守りしているのだ。

 県内には県宝に指定されている仁王像が5対ほどある。そのうち、1962(昭和37)年に指定された長勝寺の2体は鎌倉時代中期の作で最古。共に高さが190センチ以上あり、特に阿形のフォルムは筋肉隆々の腕を振り上げて金剛杵(こんごうしょ)=煩悩を破砕する武器=を持ち、力強く美しいオーラを発している。

 「中条村史」は仁王伝説について「廣福寺が無住(住職不在)の時に誰かが売却したのではないか」とクールな記述だ。

 遠くから迫る北アルプスのスカイラインを眺めながら、この壮大な伝説を練り上げた人々に感服する。

110-rekishi-0212m.jpg 長勝寺は毎年4月の初丑(今年は3日(日))が例祭で、県内外からの参拝客でにぎわう。かつては数10軒の露店が並び、地域住民の楽しみだった。寺の本尊は薬師如来。無病息災を祈り、帰りに仁王様のパワーを頂くとよい。「長寿と勝利祈願ならお任せください」と東山住職。
(2011年2月12日号掲載)

=写真=力強い阿形像

 
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