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19 閑話休題

 "生きる、死ぬ"という重い課題を、さも分かっているように臆面(おくめん)もなく書き綴(つづ)ってきたのだが、この辺で閑話休題、一服の清涼剤・川柳でひと息入れたい。

 滑稽(こっけい)、機知、諷刺(ふうし)、諧謔(かいぎゃく)、奇警(きけい)(思いもよらぬ、鋭く人の心をつく)、おとぼけなどなど。平俗な世態日常の中に人情があり、泣き笑いがある。サバサバして外連味(けれんみ)(俗受けを狙ったいやらしさ、はったり)がない。

 無理矢理に生かされている薬漬け
 食事が終わると、小袋を広げてガサゴソと。「こんなに飲まなきゃいけないのかねえ。1、2、3...10粒もあるよ。あなたは幾粒?」
 
 死ぬ人がいなくなりそな健康誌
 待合室に置かれているのは週刊誌か健康誌の類。エッチな読み物を食い入るように...も。突然「○○さーん」と呼ばれて、慌てて診察室へ。「サザエさん」を読みながら「クスッ」とひとり笑いしている人も多い。

 待合室患者同士が診察し
 「あんた、そりゃ○○病院がいいよ。K先生は〈唇を押さえて〉ヤブだってサ」

 見舞客みんな医学の解説者
 こうだ、ああだと、感服するほど病状に詳しい人がいる。他人の診察はできても、自分の診察はできないらしいが。「ふうん、ほう」と頷(うなず)きながら真剣に聞いている人たち。医者よりも説得力があったりして。

 糖尿の話ではずむクラス会
 何のことはない。今度のクラス会は、糖尿病シンポジウムのような集まりだった。みんな膝を乗り出して病状の近況報告会。同級生ならばこその気安さもあって。

 分からないことは老化と医者はいい
 加齢だトシだと言われると、患者は返す言葉がない。引き下がらざるを得ないのである。"その通りでしょうけどぉ"と歯切れが悪い。中には「そう言われると思った」なんて人もいたりする。

 カロリーを説く保健婦も太りすぎ
 ドックが終わった後説明会があるというのである。「また、同じような話だと思うけど、どうする」「せっかくだから聞いていくか」。帰り支度をしながら、決まってそんな話が交わされる。

 命さえあれば今年はよしとする
 いずれはそういうことだろうな、と自分に言い聞かせてみる。思いはあっても、体がいうことをきかなくなるのだし...。それにしても「さえあれば」は淋(さみ)しいなぁ。

 あの世へは必ず行けるあわてるな
 別に慌てているわけじゃないけれど。必ず行けることは、教えられなくとも知っていますが...。慌てない心境になりたいだけ。

 掲載した川柳は永六輔の『大往生』と「朝日川柳」から拝借。終わりに狂歌を二つ。

 今までは他人(ひと)が死ぬとは思ひしが 俺が死ぬとはこいつぁたまらん (大田南畝(なんぼ))
 死から逃れられないことは承知しているつもりだが、自分事とは思いたくないのが正直なところ。「こいつぁたまらん」と笑い飛ばしているところが妙。死はいくら拒否しても必ずやってくる。"もはやこれまで"と静かに受容できる心境になりたいものだ。

 この世をばどりゃおいとまと線香の 煙とともにはいさようなら (十返舎一九)
 なるほど。駄洒落(だじゃれ)といおうか、達観といおうか。一九の信州への来遊は都合3度に及ぶ。信州関係の作品に『滑稽旅賀羅寿(こっけいたびがらす)』と『続膝栗毛』がある。
(2011年1月29日号)
 
美しい晩年