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01 "仕組み"に沿って学ぶ

 皆さん、「算数なんて大嫌いだ!」「英語は、授業を聞いても、訳わかんない...」などという子どもたちのつぶやきを耳にしたことはありませんか? これらの発言や感情の裏には、いったいどんな原因があるのでしょう。

 私の研究分野の一つは「認識論」という哲学の一分野です。「哲学」という言葉を聞くと、一見、日常生活には縁のない領域のように思えるでしょうが、実は、とても深くわたしたちの日々の生活にかかわっています。「認識論」という研究は、「人間の知性」というものが、どのような仕組みで成り立っているか、そして、そのような仕組みと人間の文化のさまざまな在り方や問題がどのように関係しているかについて考えるものです。

 手の指を曲げて手の甲に重ねることができますか? できませんね。そういう仕組みにはなっていないからです。しかし、そういう仕組みに逆らって、指を曲げて、手の甲に付けようとすれば指は折れてしまいます。知性にもすべての人に共通する「仕組み」が存在します。その仕組みに逆らって知性を働かせようとしたとき、どんなことが起こるでしょうか。

 仕組みに逆らって知性を働かせようとして起こる問題が、顕著に現れるのが教育の領域です。先に挙げた「算数なんて、大嫌いだ!」という叫びは、その子どもの知性が、何らかの事情で、本来の仕組みに逆らって働かされようとした結果、その子の知性が痛み、痛みに耐えかねて上げた悲鳴であり得るのです。その悲鳴は、放置しておくほかはないのでしょうか。

 知性の仕組みの研究は、子どもたちの知性が上げる悲鳴の原因を丁寧に調べ、原因となっている「仕組みに逆らった」学習がどういうものかを知ることによって、つまずきから知性を解放し、喪失した自信を回復することを可能とします。 

 教育に関してさまざまな問題が日々深刻化しています。それらを解決しようとして、さまざまな教育方法や、教育論があふれています。しかし、それらの解決方法のどれが有効で、どれがそうでないかをどうやって区別すればよいのでしょうか。知性の仕組みについての理解は、その区別の鍵の一つともなり得ます。

 このコラムは、知性の仕組みを理解することによって、さまざまな問題を抱える学習・教育の日常にどんな新しい視野が開けてくるかを皆さんとともに発見していこうという試みです。

 [たむら りょうこ]飯田市生まれ。上智大学卒。米国マルケット大大学院修士課程、ボストン・カレッジ大学院博士課程修了。神学博士。現在、清泉女学院大学教授。専門は、哲学、キリスト教神学。「認識理論」に基づいた英語の授業も担当。近年『キリスドラマ』と称する脚本を執筆、同大の学生たちが演じている。

(2008年3月22日号掲載)
 
たてなおしの教育