記事カテゴリ:

061 戸隠神社6 〜よみがえった暁斎の龍図

 戸隠へ年に何度も足を運ぶ人でも、中社の拝殿で舞われる御神楽を見たことがない人が意外に多い。見た人は「いやー、感激した」「面白かったよ」と異口同音。テレビゲームに慣れた子どもでも目を真ん丸にして楽しめる。

 太々神楽(だいだいかぐら)は10種の舞で構成され、岩戸神話のストーリー通りに展開する。中でも、愛らしい巫女が鈴をシャンシャンと鳴らして踊る様には感激する。
61-rekishi-0221-01.jpg
 もう一つの見ものは社殿天井の「龍図」だ。作者は幕末から明治の鬼才・河鍋暁斎。葛飾北斎と並ぶ絵師で内外にファンが多い。1865(慶応元)年に戸隠に招かれた暁斎は一升酒を飲み干しながら大パフォーマンスで描き上げたという。右の挿絵は暁斎自筆。村人と一緒に見物しているのは僧侶たちで、明治の廃仏棄釈以前は戸隠が寺院であったことを示している。

 暁斎の龍図は「洒脱な傑作」と詩人・山田美妙や文人・村松梢風も絶賛したが、1942(昭和17)年、61-rekishi-0221-02.jpg火災で焼失してしまった。

 ところが近年、僥倖にも戦前の絵はがき=写真上=が1枚発見され、これを基に日立製作所のコンピュータ・デジタル技術で精密に復元された=写真下。朝夕、滝に打たれ斎戒沐浴(さいかいもくよく)したという暁斎の気迫がみなぎり、目を剥く龍神の表情が素晴らしい。

 暁斎は周囲の格天井絵も依頼されるが、「冬は豪雪で、春まで里には下りられない」と耳にしてびっくり仰天。深夜に宿舎を脱出し、途中の山道ではオオカミに遭遇したなどの珍談・奇談は、弟子の書いた「暁斎画談」に詳しい。
61-rekishi-0221-03.jpg(2009年2月21日号掲載)

写真はいずれも信濃毎日新聞社提供


 
足もと歴史散歩