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062 戸隠神社7 〜奥社、九頭龍社 雪崩で倒壊 コンクリ製に

 奥社には過酷な自然災害の歴史がある。記録にあるだけでも次のとおりだ。

 1298(永仁6)年に奥院が雪崩で倒壊。1869(明治2)年にも雪崩で倒壊。奥社・九頭龍社殿は62-rekishi-0228-02.jpg1936(昭和11)年2月に表層雪崩で倒壊、朝御膳奉仕中の武井さんという神官が殉職した。62(昭和37)年には雪崩で奥社本殿(明治8年再建)と休憩所が全壊。78(昭和53)年には奥社本殿・休憩所がまた雪崩で流失した。このため翌年の本殿再建では、岩盤をうがちコンクリート製の神殿を中に納める方式で現在に至っている。

 戸隠のシンボルは何といっても奥社参道の杉並木だ。いつごろ誰が植えたのかは、はっきりしない。推定樹齢は400年余。徳川家康は1612(慶長17)年、幕府の全国寺院統制の一環として、神領一千石を寄進した。たぶん、その前後に植栽されたものだろう。
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 見事な杉の大木もあわや伐採の危機があった。太平洋戦争半ばの1943(昭和18)年、軍艦増産の供木運動の候補にされたが、「奥社の杉は規格外」として免除になった。当時、造船材は目通り3尺(91センチ)が適当とされた。戸隠の杉は「大きすぎて間尺に合わない」と、判定を誘導した知恵者がいたのだろう。危ういところだった。

 奥社の祭神は地主神の九頭龍がメーンだった。「学門という行者が戸隠に行くと生臭い風が吹き、九頭一尾の"鬼"が出てきたので、行者が『悪行をした鬼は姿を隠しなさい』と命じた。鬼が岩屋に入ったので、岩戸で封じ込め寺を建立した-」と戸隠縁起にある。

 もともと龍神は本性「善」の神ではない。ヘビがルーツだから人間に害毒を与える。毒蛇への恐れが畏怖となって神格化した。地中の穴から出てきて害毒を与えてはいけない、と戒めたのが縁起の背景だろう。

 奈良で面白い古刹を知った。通称「岡寺」と呼び、関西では厄よけ祈願の寺として人気を集める。降車駅は近鉄・岡寺駅だ。この寺の正式名称は「龍蓋寺(りゅうがいじ)」。邪悪なものは穴の中に閉じ込め、蓋>をする-という非常に分かりやすい信仰だ。

 どうやら戸隠の九頭龍神話も、修験者が畿内から伝えたものと思われる。後から天照大神の記紀神話が加わり、今日の戸隠神話へと整備されていったのではないか。
(2009年2月28日号掲載)

写真上=何度も雪崩に遭った奥社の本殿
写真下=日光と並ぶ見事な杉並木


 
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