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15 トレジャー・ハンターと独創的な発見

 何か「独創的な発見」「オリジナルな作品」と聞くと、「自前の知識」がすべてのように思われがちです。しかし、意外かもしれませんが、独創的な発見、作品であればあるほど、多くの「借りる知識」の上に生まれているのです。

絞り込んでから飛び込む
 映画『タイタニック』をご覧になった人は、映画の冒頭と最後に、沈没船のお宝を探すことを仕事としている「トレジャー・ハンター(宝探し屋)」という人々が登場したのを覚えていらっしゃるでしょうか? では、この人たちは、あの広い海の中で、どうやってお宝を見つけるのでしょう。

 トレジャー・ハンターがまずすることは、いきなり海に飛び込むことではありません。彼らはまず、これまでに書かれた古今東西のさまざまな文献を調べます。そして、その中から、いつ、どんな船が、何を積んで、どこで遭難したか、ということを見つけ、海図に照らし合わせて、その船が沈んでいる海域を絞り込むのです。そして、船がその地点に到達したとき、ようやく海に飛び込みます。

先人の模倣・研究したピカソ
 「独創的な発見」もこれと同じです。例えば、自然科学者の卵たちは、まず、先人が残してくれた膨大な質問やひらめきや知識を詳しく勉強し、どんな種類の研究がどんなところまで進んでいるかを調べます。それは、トレジャー・ハンターが過去の知識を調べて、海図の上に沈没船の在りかのおおよその目安をつけるのと似ています。

 彼らは、自分の研究領域の先人、同時代の他の研究者たちの仕事の知的共同遺産の全体像(借りる知識)と、自分がその全体の中のどの位置に立っているのかを見極めた上で、まだ解答が発見されていない質問を見つけ出し、その質問に対する独自の発見(自前の知識)を試みるのです。

 独創的な発見ができるかどうかは、発見されることを待っている新しい事実の在りかを、どれくらい精密に海図の上で探し当てることができるかにかかっており、それを探し当てるには、過去からの知的遺産をどれほど多く、正確に身につけているかが鍵となるのです。

 芸術の領域において、ピカソの独創的な作品が生まれた背景に、先人たちの作品についての多くの模倣と研究があったのも同じことです。

 子どもたちにとって、例えば歴史の教科書は、時に退屈な過去のデータの集積にすぎないととらえられることがあります。もし、お子さんが、「なんで、もう過ぎ去ったことを勉強しなきゃいけないの?」と問うことがあったら、「昔を知れば知るほど(温故)、現在の自分の立ち位置の確かな理解と、より豊かな将来の生き方への知恵(知新)という宝を見つけやすいんだよ」と説明することができるかもしれません。

(2009年5月16日号掲載)
 
たてなおしの教育