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22 転機の舞台 〜出ずっぱりの難役 膨大なせりふ覚え〜

22-kuraishi-0402p.jpg 新劇に入って、これまでの映画やテレビとは全く違う役作りにカルチャーショックを受けました。それまでシェークスピアを読んだこともなければ、新劇は理屈っぽいと思い込んでいて、あまり好きではありませんでした。

 ところが、やってみると確かに理屈っぽいところもありますが、毎日のディスカッションから何かが生まれてくるのです。1カ月以上の稽古が必要なんだと初めて理解しました。
寝坊して大慌て

 生意気盛りで未熟さゆえの失敗もありました。『ベニスの商人』の後、伊藤雄之助さんが主演の舞台『赤ひげ』に、若い医師、保本役で出演した時のことです。地方巡業先で友人とマージャンに夢中になり、寝坊してしまったんです。仲間たちの乗った列車はすでに出発していて、慌てて車で追い掛けました。舞台には間に合いましたが、伊藤さんには大変失礼なことをしたと思っています。あれほどの名優ですから、もっともっと芝居を吸収しておけばと、残念な思いと反省でいっぱいです。

 名プロデューサーの石井ふく子先生との出会いも大きな転機となりました。京塚昌子さん主演のテレビ番組にレギュラー出演しながら、名古屋の名鉄ホールと東京のスタジオとをとんぼ返りの毎日で大変でしたが、楽しかったな。

 石井先生の舞台は稽古場から緊張感があって、集合時間など全てに厳しく、若いころからの遅刻癖が直りました。石井先生は演技指導も的確で、習い事をしなさいと言われ、もう一度一からやり直しと思って、藤間流の日舞も習いました。

 思い出の舞台は、本格的喜劇に主演した三越劇場の『ノーセックス・プリーズ』です。この舞台は3回再演を重ねました。アメリカ、イタリア、オーストラリア、そして日本をも大爆笑の渦に巻き込んだ傑作コメディーですが、なんと上演1週間前にプロデューサーと揉(も)めたメーンキャストの細川俊之さん、加賀まりこさん、緒方拳さんの3人が、土壇場で一斉降板といういわく付きの舞台でした。

 演出の賀原夏子さんが私を推薦してくださったのですが、舞台映えする役者が欲しかったそうです。今になってみると、僕の身長183センチの体格は外国人役に向いていたわけです。

 僕が演ずる支店長の役は、ほとんど出ずっぱり。しかも、てんやわんやの大騒ぎをしながら舞台中を走り回り、膨大なせりふを言うという難役です。無理だと思いましたが、とにかくやってみようと。できちゃうもんですね。わずか1週間で膨大なせりふを覚えたことは自信になりました。今があるのは、この舞台のおかげです。

勉強家の黒柳さん
 黒柳徹子さんとの共演も転機となった舞台です。黒柳さんは大変な博学で知られていますが、百科事典などあらゆる書物を徹底的に調べ尽くす勉強家。復習・予習を大切にする姿勢に、見えないところでの努力が必要と、あらためて思いました。

 フルート奏者役のときは本物らしく見えるようにフルートを習い、2,3曲は演奏できるようになりました。お客さまからも「本当に吹いているんでしょう」なんて言われた時は習ったかいがあり、うれしいですね。
 その延長で弾き語りをしたくて、何十年も前の古いギターを引っ張り出したら、息子が新しいギターを買ってくれたんですよ。ぶっきらぼうに「これ使ったら」なんてね。うれしかったですね。
 幾つになっても役者は思いついたらすぐやること。日頃からの積み重ねが大事なんだと、つくづく思います。
(聞き書き・西沢よしえ)
(2011年4月2日号掲載)

=写真=「ノーセックス・プリーズ」の舞台で、柏原芳恵さんと


 
倉石功さん