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25 東日本大震災が訓えるもの1

 何事につけて、思い通りにいかないのは世の常である。それは結果として、個々の内側からの精神の弛緩(ゆるみ、たるみ)や無明(煩悩にとらわれた迷いの世界)によることも多いが、無明の闇からやっとの思いで這い上がって、暗夜の一灯を見いだし、さてこれから、よしッやるゾと、思っていた矢先、全く予期しない出来事に不意打ちを食らうこともある。

 それは天災であったり人災であったりするのだが、このたびの東北・関東を襲った大地震はその好例であった。あまりにも破格の規模で天災と人災(原発)、非情と無情が同時に襲ってきたのだった。

   東北魂と賢治の心
 地域の歴史を詳らかにするとき、たとえ一集落、一村であってもその地の歴史は、地震・大風・大雨・旱・洪水・飢饉・流行病等々による災害の歴史であることが分かる。そして同時に、それは地域復興、人間再生の歴史であったことが知られる。

 大きな挫折に打ちのめされてきたのであったが、先人たちはそれに耐えに耐え、歯を食いしばって乗り越え、挫折を糧ともバネともして新しい時代を創り出してきた。その苦闘の日々と果敢な志を語って余りある歴史が山ほどもあるのだ。

 さて、このたびの大震災に当たって、海外から日本人称賛の声が高く上がっていることが伝えられている。まれに見る危機状態であるにもかかわらず、その規律の正しさ、冷静な行動、支え合い、譲り合い、助け合い、融通し合う芯の強さと優しさに対して、強い印象を受けた、深い感銘を受けた、勇気づけられたというのである。

 とかく掠奪が横行し、百鬼夜行が公然のごとくまかり通るのが一般的というなかにあって、というのである。私はそれを聞いて、それこそが東北魂であり、東北が生んだ宮沢賢治の心と、事に当たっての行動のあり方を目の当たりにしたのだった。

   芯の強さと優しさ
 ところで私は3月26日付の朝日新聞「3・11オピニオン」を読み、私の思いを代弁してくれていることを知り、深く感謝している。いちいちが納得させられる話だ。以下はその抄録である。

 ・増田寛也(ひろや)さん(前岩手県知事)"東北の役割見直し 復興を"
 「東京が機関車となって引っ張った戦後の高度成長は、人材や労働力、電力の面で陰に陽に東北が支えてきた。福島第一原子力発電所でできた電力はみな、東京に送られている」

 ・大川健嗣(たてつぐ)さん(山形大学名誉教授)"東京支えた東北を 心に刻め"
 「戦後日本の東京の発展は東北が支えてきた...大量の労働力提供...出稼ぎも青森・秋田・山形を中心にピーク時で全国の半分強を東北が占めた...若者が都市に吸収され、農村に深刻な高齢化、後継者不足を招いた...都市の電力すら東北に依存している現実...東北が果たしてきた役割を改めて考えてほしい...東京の若者にも東北を誇ってほしい。都市と農村は対立関係でも上下関係でもない」

 ・高橋克彦(かつひこ)さん(作家)"耐え忍ぶ力 見事な振る舞い"
 「東北は、平安時代からずっと戦いに負け続けてきた。戦後になっても中央とは経済的、文化的な格差がある。そういう抑圧に耐え続けた遺伝子が受け継がれ、この危機を耐え忍ぶ力を与えている。子どもから老人まで、国内だけでなく世界を感動させる見事な振る舞いをしている。この芯の強さに裏打ちされた優しさがある限り、被災地は必ず復興し、みんなを勇気づけてくれると信じている」

 いまこそ東北が持つ潜在力、挫折と忍従のなかで育てられてきた不屈の精神、とりわけ老人層のなかに息づく、土着の思想にこそ学ぶべきときではなかろうか。
(2011年5月14日号掲載)
 
美しい晩年