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116 浄専寺 〜藤の花で知られる古刹〜

116-rekishi-0611p.jpg JR信越線・三才駅から北東へ徒歩5分のところにある浄専寺。細い旧街道(現・県道長野豊野線)沿いの古刹で、藤の花で近隣に知られている。5月中旬には参道から庫裏にかけ、5本の古木が藤棚となって紫色の天井をつくる=写真。

 かつては三才地域の春祭りとして、藤の花の開花に合わせ聖徳太子講が盛大に開催された。だが、主体の商工会の活動が鈍り、学校の農繁休暇もなくなったため、今は5月中旬に太子奉賛会や親鸞聖人誕生の法会を行っている。若い父母には「聖徳保育園のお寺」という方が分かりやすい。

 近隣の浄土真宗の寺院と同じく、鎌倉時代の親鸞聖人布教伝説を寺の由緒にしている。親鸞の銅像の立つ本堂がモダンな格子風に、鐘楼も格子でデザインされ、近代的な感じがする。

 市の保存樹木に指定されている藤だが「由緒はよく分からない」と若槻昭雄住職。柏原(信濃町)の熱心な門徒(真宗信者)であった小林一茶は、弟子のいた善光寺町とをたびたび往復した。その際には、最短距離のこの街道を通ったに違いない。藤を詠んだ一茶句は20に上る。

 仰のけに寝てしゃぶりけり藤の花
 藤の花南無あゝあゝとそよぎけり
 花の姿が浮かぶこれらの名句は、この寺で詠んだのかもしれない。

 近くの三才駅は近年、我が子の3歳の誕生日に健やかな成長祈念の駅として名所になっている。休日などにはファミリーの行列ができる。無料の駅帽を借りて、駅舎入り口の撮影用看板を背に「ハイチーズ」と写真に収まる光景がすっかりおなじみになった。

116-rekishi-0611m.jpg 「三才」の地名の由来は史料に見当たらない。ささやかな口伝が根拠のようだ。桐原や吉田の牧の隣地で、一帯は古来、宮廷に献上する馬の産地であった。馬は3歳になると一人前になることにちなんだらしい。

 三才駅では、今では珍しくなった硬券の記念入場券が親子セットで210円で買える。付いてくる台紙に駅のスタンプを押すのがパターンとなっている。物心がつき始めた3歳児が大人になって振り返れば、ほろ苦い人生儀礼の思い出になるかもしれない。
(2011年6月11日号掲載)

 
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