記事カテゴリ:

28 「幽霊西へ行く」(1935年)〜怖くない怪談映画ある?

28-kinema-0806p.jpg

 Q 無類の怖がりなのですが、怖くない怪談映画ってあるでしょうか?


 A 怖いけど、やっぱり夏は怪談。日本人のお約束ですね。アメリカならホラー映画の公開はハロウィーンの季節と相場が決まっているのですが、あちらも万霊節の前日ですから、祖霊信仰の側面からは日本のお盆と同じ感覚かもしれません。


 さて、怪談ということになると、四谷怪談、番町皿屋敷等々、いずれも、かなり怨念のこもった話ですので、怖くない方向性は難しくなります。でも、怪談と名が付いていても、怖くないものも探せばあります。


 例えば、『殿さま弥次喜多 怪談道中』(東映1958年)。このくらいになると、怖さのレベルは限りなく

低くなるでしょう。東映健全娯楽時代劇黄金時代の看板スター・中村錦之助と、実弟の中村賀津雄演じる徳川若殿コンビが、町人姿で幽霊と共に繰り広げる珍道中。澤島忠監督の古き良き時代の勧善懲悪チャンバラ・コメディーです。...と書いたものの、残念ながら、この作品のDVDは出ていません。


 余談ですが、欧米と比べると日本の映画文化政策、とりわけ歴史継承の面には、まだまだ問題が多いのです。古典に対する努力は始まっていますが、娯楽作品であろうと、また時代の評価がどうであれ、あらゆる作品のプリントを保存、修復して後世に残し、誰でもいつでも見られるようにすることが重要な文化事業です。


 さて、日本の幽霊がダメとなれば、映画史上最も有名な幽霊映画はいかがでしょうか。


 スコットランドの古城が解体されて、アメリカに売られてしまうことになるのですが、城に取りついている200年前の幽霊も一緒にアメリカに渡ることになって...。


 城の買い手の大金持ちのアメリカ人とその娘。娘にひかれ手放した先祖伝来の城と一緒にアメリカにわたるスコットランド人城主、敵討ちが宿命である色好みの幽霊。英米の立場の異なる人々が巻き起こすひと騒動。風刺の利いた粋なコメディー『幽霊西へ行く』(1935年)は、現在も新鮮な感覚で見ることができます。


 監督はルネ・クレール。大阪万博での講演の折、来日に舞い上がった故・淀川長治さんが、舞台の袖に監督を待たせたまま、延々30分以上その紹介に熱弁を振るったのは有名です。ご紹介した日本映画より23年も前の作品ですが、DVDはちゃんと出ています。


 日常が映画よりよほど怖い今日の日本。しばし、本当の恐怖と憂いを忘れ、「怖くない怪談」に見入るのも一興でしょう。

(2011年8月6日号掲載)


=写真=『幽霊西へ行く』発売/アイ・ヴィー・シー 1890円

 
キネマなFAQ