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43 母語と第2言語 〜基本のルールを教えた方がずっと早く楽しめる〜

 英語学習で英文法をあまり説明しない別の理由として「英語を話す国の子どもたちは、文法など説明されなくても話せるようになる。だから、(日本語を母語とする子どもたちも)英語に触れてさえいれば、文法を説明しなくても、そのうち分かるようになる」というものがあります。これは、「母語」の習得と「第2言語」習得の性質の違いを無視したものです。


 英語を母語とする子どもたちは、英文法を「説明されて」理解するようになるわけではありません。これは日本語を母語とする我々についても同じことが言えます。


 赤ちゃんは、自分を取り囲む人間たちが話す言語に日々接し、その中で、「マンマ」などの単語のレベルから始まって、「マンマたべる」などの2語で成り立つ文へと、少しずつステップを踏んで、言語の仕組みを「自分で」理解し、活用できるようになっていきます。 


 しかし、このような「自力での」母語習得が成功するには、いくつかの前提条件が必要です。

主に

(1)毎日の言語活動のほとんどをその言語に浸ること

(2)言語というものがまだ「何も習得されていない」赤ちゃんの時から始めること

(3)周りの大人たちが注意することによって、子どもの誤った文法理解が絶えず訂正されること。例えば、(ご飯を欲しがっている)子が「マンマ、たべて」と間違って表現したのに対して、母親が「『マンマを食べたい』のね」と言い直す--などです。


 しかし、母語とは異なった言語を第2言語として習得する場合、母語習得の場合とはこれらの前提条件が大きく異なることが分かります。


 まず、「時間数」の比較をしてみると、赤ちゃんが母語として英語に触れる時間は、1日平均4時間と計算しても、生まれてから7歳までにおよそ1万時間であるのに対して、日本の公立中学の英語の授業は週に4回、3年間で350時間(420回の授業×50分)です。


 約1万時間をかけて母語として習得する言語の基礎を、第2言語として、350時間でほとんど説明なしに「自分で理解せよ」というのは、将棋に興味を持った子どもに「お父さんたちが(将棋を)指しているのをずっと見ていてごらん。そのうち駒の動かし方が分かるから」と言うのと似ています。そんなことをしていたら、子どもは逃げ出してしまいます。それよりも、最初に駒の動きの基本ルールを教えた方が、ずっと早くゲームを楽しめるようになるでしょう。


 これに対して、「それなら、英語に触れる時間数を増やしさえすればいい」と、「英語を浴びる」という勉強法のすすめが流行するようになります。

 次回に続きます。

(2011年9月24日号掲載)

 
たてなおしの教育