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31 「砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード」(1970年) 〜ヒーロー不在の映画は?

 Q ヒーローものが目立ちますが、ヒーローが出ない映画ってあるのでしょうか?


 A このところ、アメコミのヒーローたちがCGや3Dで暴れ回り、それを茶化した『キック・アス』(マシュー・ヴォーン監督、2010年)まで登場して、食傷気味ですね。


 でも、スーパーヒーローはともかく、全くヒーロー不在の映画は考えられません。映画のヒーロー=主人公は超人でなくとも、何かしら優れた特性(強い、きれい、格好いい、知的、優しい、誠実等々)を持っていて、事件や葛藤を解決したり、乗り越えたりする存在です。これなしでは物語は成立しません。


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 もっとも、主役が期待されるような正義の側ではなく、その反対、悪の側の人物である場合もあります。アンチ・ヒーローというような言葉が使われたりしますが、これは裏返しのヒーロー。でも実は、ヒーローともアンチ・ヒーローともつかぬ主人公が登場する映画もあるのです。例えば、本日ご紹介するサム・ペキンパー監督の『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』(1970年)。


 主人公ホーグを演じるのは『大統領の陰謀』などでおなじみの名優ジェイソン・ロバーズ。美男とは言いがたい面相です。しかも、強くもありません。何しろ、いきなり仲間に裏切られて、身ぐるみ剥がされて砂漠に置き去りにされるくらいですから。恨みの一念で水を求めて生き残り、砂漠で見つけた泉で給水所を経営、裏切り者たちがやって来るのをただ待ち構えるのです。


 そして、いざ、復讐となっても、裏切りを罰せれば満足で、相手の命までとは思いません。

西部開拓も終わりを迎える時代、アリゾナの砂漠の片隅で、うさん臭い友人と、気のいい娼婦(ステラ・スティーブンス)を相手に暮らし、ひたすら復讐の機会を待ち続ける中年男は、さっそうたる正義のヒーローやクールな悪のアンチ・ヒーロー像とは程遠い人物です。おまけに「えっ、これが終わりなの!」というラストまで、ホーグはヒーローらしくないのです。


 しかし、この作品を見たことのある人で、好きな映画の一本に挙げない人はまれです。観客はケーブル・ホーグが好きにならずにはいられないのです。


 ペキンパー監督といえば、伝説的ガンファイトの『ワイルドバンチ』を思い浮かべるでしょうが、同じスタッフで作られたこちらの作品にこそ、真骨頂があると思う人も多いのです。他ならぬ監督自身もその一人でした。

(2011年11月5日号掲載)


=写真=『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード 特別版』ワーナー・ホーム・ビデオ 3980円

 
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