
この夏、いつかはと思っていた3775.6メートルの日本最高地点に立つことができた。均整の取れたその姿といい、山の大きさといい、訪れる登山客の多さといい、やはり富士は「日本一の山」であることを実感した。
今回は、仕事で知り合った30代半ばのS君が、もう10年ほど毎夏富士山に登っていることを知り、案内がてら同行を頼んだ。いささか強行軍ではあるが、互いに仕事があるので出発は金曜の夜。土曜の早朝から登って下山し、できればその日のうちに長野まで戻り、日曜は休息に充てるというスケジュールを組んだ。
S君の車で午後9時過ぎに自宅を出発。中央道の大月から富士スバルラインへ。途中、河口湖近くのコンビニで食料や飲み物を調達し、翌午前1時ころ富士山5合目に到着した。だが、大駐車場はご来光目当ての登山客の車で既に満杯。やむなく2キロほど手前の路肩に車を止めるはめに。
寝がけに缶ビールを飲みながら、見上げると満天の星。「ミルクを流したような天の川」という表現が初めて納得できた。車内で3時間ほど仮眠し、空が白み始めた5時前から行動を開始。6時過ぎに登山口を出発し、後はひたすら登る。
好天に恵まれ、強烈な日射を浴びながらの登山だが、標高が高いためか汗はほとんどかかない。全国各地からバスツアーで繰り込む客が多く、子どもや外国人を含め老若男女が列をなしている。若者の姿が目立つのも富士山ならではだ。
途中、立ち寄った7合目の山小屋のトイレで驚いた。100円のチップを払ってドアを開けると、何と洋式便座が。トイレットペーパーまで備わっている。少し前まで山腹の"白い帯"が問題化した富士山のトイレ事情は随分改善されていた。
8合目から山頂にかけては、高山病にかかり青ざめた顔をした登山者が目に付く。中には道端にへたり込んだり、横たわる人も。
11時過ぎに3720メートルの山頂に到着。数軒ある頂上小屋の周りは登山客でいっぱいだ。人込みを避けて、火口を一周するお鉢巡りに。約1時間で旧富士山測候所が建つ剣ケ峰へ。「日本最高所」の標識は思ったより小さく地味だったが、記念写真を撮る登山客で行列ができるほどの人気だ。
その少し先で、荒々しい火口を見下ろしながら昼食を取り、一気に下山。5合目には午後4時過ぎに着き、河口湖畔の温泉で汗を流して1時間ほど仮眠。そのまま車を飛ばして長野へ着いたのは11時ごろだった。さすがに疲れたが、生涯の思い出になるだろう。
(2007年9月8日号掲載)