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03 姨捨山 〜簡単に登れる絶景の山〜

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 朝から真夏のような日差しが照り付けた9月中旬の土曜日。好天がもったいなくて、山へ行きたくなり、思い立ったのが姨捨山(おばすてやま)だ。一般には冠着山(かむりきやま)と呼ばれるが、姨捨伝説を題材にした深沢七郎の『楢山節考』の印象が強いせいか、わたしには姨捨山の方がぴったりくる。


 善光寺平の南端に位置し、標高は1252メートルにすぎない。けれども、周囲より抜きんでて高く、冠をかぶったような姿に見えることから、その名が付いたといわれる。


 山歩きの際に愛用している県警のホームページ掲載「信州山歩きマップ」には、「30分で登れる山」とある。長野の自宅を出たのは、何と午前11時。国道18号を千曲市へ向かい、稲荷山から同403号を聖高原方面へ進む。その途中から千曲高原キャンプ場、大池方面へ入る。一本松峠を経て上山田方面へ走ると、筑北村からの登山口・鳥居平に出る。途中、コンビニに寄ったり、姨捨からの眺めを楽しんでいたので、ここまでに1時間半かかった。


 がら空きの駐車場から登り始める。以前、中央アルプスで同行者が熊に襲われた経験があり、熊にはトラウマがある。ザックに大きな音の出るカウベルを結び付け、人けのない山中に入る。


 地元の人たちがよく登るせいか、両脇の草が刈られ、滑りやすい斜面には丸太を組み、道はよく整備されている。時折、トンボが地を這うように前を行く。一汗かく間もなく頂上だ。休みなしで25分。本当に30分で登れる。


 山頂からの眺めは素晴らしい。南に美ケ原、東南に上田盆地や塩田平を望み、北側の樹間には眼下の棚田から続く善光寺平が一望できる。ちょうど長野道姨捨サービスエリア辺りから見える風景を、もっと高い位置から見下ろす感じだ。


 一人で景色に見入っていると、突然、熊よけの鈴とラジオを鳴らした70歳前後の男性が登ってきた。頂上にある神社の社殿に入って何かしたかと思うと、「それでは、お先に」と声を掛け、すぐに戻って行ってしまった。


 不思議に思って社殿に入ってみると、記帳簿があり、ページを開いて驚いた。ほかはボールペンなのに、サインペンで記された先ほどのおじさんの記帳は、その日だけで3回目。前のページをめくってみると、3月以降はほとんど毎日。それも午前5時台が多い。中には1日2、3回の日も。簡単に登れる山とはいえ、恐れ入りました。


 下界は真夏日だったこの日、社殿脇の寒暖計は午後1時半でも19度。〈更科や姨捨山の月ぞこれ〉。山頂にある高浜虚子の句碑を頭に刻んで下山。帰りは20分で登山口に着いた。


(2007年10月6日号掲載)


=写真=山頂から棚田を眼下に善光寺平を望む