
以前から訪れてみたかった場所の一つが、北アルプスの高瀬渓谷奥部の湯俣にある国天然記念物の「噴湯丘(ふんとうきゅう)」だ。温泉がわき出る河原から盛り上がり、頂上の穴から噴き出す硫黄などが固まってできたドーム型の姿が、写真で見て強く印象に残っていた。
晴天の特異日でもある「文化の日」、山仲間のK氏夫妻を誘って出掛けた。午前7時に車で長野を出発、オリンピック道路を経て大町市に入ると一面の霧だ。市街地を過ぎ、標高が上がるにつれて霧は晴れ、案の定素晴らしい好天となった。
高瀬川の東電・大町ダムと七倉ダムを過ぎると、遮断機付きのゲートがあり、ここでタクシーに乗り換える。終点の高瀬ダムまでは10分ほどで、料金は2100円。ロックフィル式のダムの表面を登れば1時間ほどかかるため、時間短縮のためには乗らざるを得ない。
9時前に高瀬ダムの堤頂部を歩き始めると、すぐ1キロ以上あるトンネルに入る。さらに2つのトンネルを通り、ダム湖の最上流部へと進む。最盛期は過ぎたとはいえ、対岸の紅葉が朝の光に輝く。硫黄分を含んでいるためか、湖水の色はコバルトブルーに近い。
東電の許可車両が入れるダム湖流入部までは、早足で約1時間。そこから登山道へ入るが、発電用の巡視路でもあるためよく整備されている。川沿いにさらに1時間半ほど歩き、目指す湯俣へ。

途中、渓谷の奥に槍ケ岳が間近に見える場所があった。写真などで普段目にする槍沢側からとは反対方向に当たるため、小槍が右手に見える。
重量制限で一人ずつしか渡れないつり橋を過ぎ、ロープを頼りにがけを下ると、河原から何カ所も湯気が上がっている。スコップやバケツを手に、砂を掘って川の水を引き入れ、露天風呂を作っている若者たちの姿も。
昼前にようやく着いた噴湯丘は、想像していたより漫画チックだった。水流が激しく簡単には近寄れない最大のドームは高さ3メートルほど。蒸気を上げる頂上部は一段高く、とがった形をしている。
少し上流にある成長過程のもう一つは、まだ平べったいものの、上部の3カ所から盛んに湯を噴き出していた。これも長い時間をかけてドーム型になっていくのだろう。
太ももまでズボンをまくり上げ、ドームのある対岸へ果敢に川を渡り切る若者もいた。熱い露天風呂が目当てらしい。帰りには、先ほど露天風呂を掘っていた若い男女数人が、水着姿でのんびりと湯につかっていた。
われわれも帰路、七倉か葛で温泉に入る予定だったが、秋の日はつるべ落とし。とうとう寄る時間がなく、長野までとんぼ返りした。
(2007年11月24日号掲載)
=写真=湯俣川の河原に盛り上がる噴湯丘