
若いころ転勤で上田市に住んだことがある。その当時から登ってみたかった山が、塩田平の独鈷山(とっこさん)だ。標高は1266メートルにすぎないが、戸隠連峰を小型化したようなゴツゴツした姿に引かれる。小春日和の12月初旬の日曜日、山仲間のT氏とN君の3人で出掛けた。
独鈷山には幾つかルートがある。同じ道を上り下りするよりは...と、車2台で長野を出発。先にN君の車を下山先となる平井寺からの登山口に置き、次にT氏の車で中禅寺からの登山口へ回り、登ることにした。
ところが、平井寺口へ車を置きに行く途中、銃を持って狩猟の見張りをしている人に出会った。霧が濃かったため「危険だから、この先へ行くのはやめろ」と言う。せっかく長野から2台で来たので、「登山口に車を置くだけ」と説得して、ようやく予定の行動に。
中禅寺からの登山口には「頂上まで100分」の標識がある。このコースには、10分置きに「あと○分」の標識があるので、時計を気にしないで登れるのがうれしい。
薄暗い杉林の中をしばらく行くと、不動滝に出た。いかめしい名前の割には落差も短く、水量も少ない。さらに進むと、胴に縄が巻かれた石神様に出合う。この一帯は広場になっていて、春は福寿草の群生地という。

樹林帯を抜けると、明るい雑木林に出た。この時季の里山は広葉樹の葉が落ち、木々の間から眺望が利くのがいい。だが、急に傾斜がきつくなり、落ち葉で滑りがちな登山道から足を踏み外すと、一気に下へ転がり落ちかねない。ジグザグに切ってある胸突き八丁の道を息を弾ませて登る。
やっと稜線に出て、やせ尾根を迂回し、トラロープを頼りにがけを登り切ると、大きな岩の上に出た。ここから見下ろす塩田平は絶景だ。眼下には農業用のため池が点在し、のどかな田園風景が広がる。
ほどなくして沢山湖などからのルートと合流し、稜線を登り切ると頂上だ。展望は360度。東に浅間山を望み、南には蓼科山やテレビ塔が林立する美ケ原が指呼の間だ。西には遠く北アルプスの山々が連なり、北には上田盆地の先に飯縄、戸隠、黒姫なども見える。
頂上には、なぜか季節外れのこいのぼりが翻っていた。下のため池が「塩田ゴイ」の産地だからなのだろうか。ほこらの下にはトタン屋根付きの記帳箱もある。
暖かい日差しを浴び、景色を堪能しながら昼食を取り、平井寺口へ向かって下山。こちらの斜度も相当なものだ。落ち葉を蹴(け)立てて下る途中、イノシシが地面に体をこすり付けて暴れた跡のヌタ場を2カ所見た。朝の狩猟はイノシシ狩りだったのだろう。下山時に猟は終わっていて、銃声も聞こえずほっとした。
(2007年12月22日号掲載)
=写真=登り詰めた山頂に翻る季節外れのこいのぼり