
5月最後の日曜日、仲間4人で信越県境の鍋倉山(1289m)に登った。残雪とブナの新緑が美しいこの時季に、谷を詰めて登るのは数年前と昨年に続き3回目だ。
長野を8時に出発。あいにくの曇り空だが、降られなければよしとする。飯山市戸狩から県境の関田峠へ向かう途中、田茂木池を過ぎて間もなく道の両側に駐車場がある。ここで支度を整え、少し下った山側の踏み跡から山中へ分け入った。
しばらくは泥道と覆いかぶさるようなやぶとの格闘が続く。やがて道は消えて雪の斜面となり、雪面に登山靴を蹴り込みながら進む。山全体を覆うブナの森の中はガスってはいるが、芽吹きの柔らかな緑が目に染みるようだ。時折、小鳥の澄んだ鳴き声が響く。

ブナの木の根元には幹のぬくもりが雪を解かし、ぽっかりと地肌をのぞかせた「根明け」が散見できる。雪の下からゴーゴーと激しい水流の音がし、雪庇(せっぴ)が崩れて落ち込んでいる個所も。落ちたらひとたまりもないだろう。
滑る雪面に難儀し、全員がアイゼンを着けることにした。今度は鉄の爪が小気味よく雪に食い込み、打って変わって歩きやすい。ベテランの案内で谷筋を三つ四つ横切り、息を弾ませながら急斜面を登り詰めると稜線に出て、関田峠からの登山道と合流した。
さらに30分ほど登ると頂上だ。既に10人ほどが休んでいて、間もなく20人くらいのツアー客がやって来た。登山道コースなら登りやすい鍋倉山は、この時季も人気がある。

我々は人込みを避け、東斜面の雪の上にビニールシートを広げて昼食にする。一汗かいた後だけに、準備の間、雪の中に埋めておいた缶ビールがよく冷えていて実にうまかった。
帰路も同じ谷コースを下る。上りは悪戦苦闘しながら2時間かかったのに、ほぼ1時間で下り切った。眺望には恵まれなかったが、たっぷり森林浴ができた一日だった。
(2010年6月12日号掲載)