
待ちわびていた梅雨明け最初の土曜日に、戸隠連峰の最高峰・高妻山(2353m)に登った。
「日本百名山」の一つで、犀川の南方面から望むとピラミッド型の山容が美しい。一度は登りたいと思っていたが、往復約10時間の行程を考えると二の足を踏んでいた。日の長い今がチャンスなのだ。
メンバーは一度登っているT氏と山仲間のS君と私の3人。まだ薄暗い4時に長野市内を出発し、5時過ぎに戸隠牧場をスタート。朝日を浴びた山々がきれいだ。
牧場柵を抜け、登山道に入る。樹林の中を何度も沢を渡りながら進む。一汗かいたところで、岩盤上を水が流れ落ちる滑滝(なめたき)が現れる。鎖を頼りに登ると、程なくして最大の難所の帯岩だ。岩盤上に靴幅だけのステップが切ってあり、1メートル間隔で垂れ下がっている鎖にすがって慎重に渡る。

さらに登ると沢の水源へ。以前は「一杯清水」と呼んでいたが、「『氷清水』に名称変更したので、地図を訂正してください」との木札が下がっている。その名のとおり冷たい水で喉を潤し、水筒に補給する。
間もなく稜線鞍部の一不動に着く。避難小屋は人が多いので、右折して二釈迦の付近で休憩。ここまでは順調だったが、案内役のT氏がバテて寝転んでしまった。日頃の運動不足もあり、熱中症気味になったようだ。
菩薩や如来を祀る石祠(ほこら)があり、登山の目安になっている。切れ落ちた東側の崖はお花畑でニッコウキスゲの花が美しい。
ほぼ中間点の五地蔵を過ぎると、六弥勒、七薬師、八観音とアップダウンが続く。九勢至で休憩していると、後から釈杖(しゃくじょう)を手にした白装束の若い山伏がやってきた。足元の白足袋は泥で汚れ、法衣も汗でびっしょりだ。高野山の修験僧で夏は毎年、戸隠連山、西岳、高妻山を交互に訪れているという。やはり戸隠は霊山なのだ。

さて、ここからが高妻山のクライマックス。目の前に見上げるような高さで、どっしりとした山塊がそびえ立っている。下ってきた山おばさんが「とても二本足では登れないわよ」と言うように、いきなり急登が始まり、段差のある岩道を両手も使い、はうように、たっぷり1時間は登る。
やっとの思いで登り切ると視界が開け、立派な祠と青銅鏡が立つ十阿弥陀だ。たどり着いた山頂には、先客が20人ほど。北アルプスは見えなかったものの、眼前に戸隠連山から西岳への峰が続き、眼下には奥裾花の深い谷が入り込んでいる。まさに深山幽谷だ。
山頂でT氏はまた一眠り。昼食の後、帰りは急坂を慎重に下り、六弥勒から弥勒新道へ。急な長い下りが続き、膝が笑う。途中、猿が出てきたり、熊の新しい糞を幾つも見つけ、慌ててラジオや鈴を鳴らしての下山となった。
(2011年7月30日号掲載)