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132 瓢箪駒の道祖神 〜善光寺の参拝者が小休止〜

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 善光寺参道の西側、北野文芸座の南隣に鎮座する超ミニの祠が、瓢箪駒の道祖神だ。 


 「そんなお宮、見たことありませんなあ」。わざわざ出掛けて行った人も「ありませんでした」と帰ってくる始末だ。無理もない。文芸座と隣の「人形の島桂」商店の間の、人間一人ほどの隙間に立つ。間口2尺(60センチ)ほどだから見逃してしまう。


 だが、観音開きの門扉の中には、道祖神と刻んだ石柱上に社殿、鳥居も付いて賽銭箱もぶら下がっている。流造(ながれづくり)の屋根には横樋、親指ほどの縦樋もちゃんと付いている=写真上。


 「この道祖神は商売繁盛の御利益がある」と、上後町の氏子が大切にお守りしている。見ものは覆いの社屋軒下の彫刻だ。中国古典伝説の張果老(ちょうかろう)という仙人が瓢箪を握り、水流とともにかわいい馬を吹き出している=同下。


 「参道はここから急坂になるので、昔から善光寺の参拝者が小休止した場所です。道祖神は本堂まであと一息、頑張りましょうのエールです」と、氏子総代の横田悦二郎さん。


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 張果老は玄宗皇帝(妻は楊貴妃)時代の人で、瓢箪からたたき出した不思議な白い馬に乗り、一日に何万里も旅した。休む時は馬を折り畳み、瓢箪に納めた。長距離をてくてく歩くしか手段のない庶民にとって夢のような伝説を木彫で飾り、往復路の安全の縁(えにし)とした。


 十数年前まで筋向かいの東側には、1862(文久2)年創業の「ふとんの紀州屋」があった。


 「戦前、ある年のえびす講の前夜、荷馬車が飛び込んできまして、山積みの商品も店もメチャクチャ! 坂道に止めたサイドブレーキがない荷馬車がじりじりと動き出し、馬もお手上げになったらしい。損害保険による補償などない時代です。先代は思案の末、-めでたい天馬が飛び込んで大入りの紀州屋だ-と口コミで流したところ翌日から見物客が押し寄せ、布団は飛ぶような売れ行きとなった」。最後の社長・丸山久夫さんから伺った話だ。

 

「婚礼の布団は大入りの紀州屋」の定評で、戦後早くモダンな商家に改築した。店内には踊り場付きの大型階段をあつらえ、1〜2階を回遊して布団を選ぶ趣向だった。


 しかし栄枯盛衰の理で、スーパーの合繊布団の大量販売に抗すべくもなく商売は手じまいとなった。鉄骨モルタルのユニークな社屋は、今は飲食店となっている。

(2012年3月3日号掲載)

 
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