「喉が痛くて咳が出る。でも熱もないから風邪だろう」と放っておいたら、2週間以上もたつのにちっとも治まらない。それどころか家族全員、咳が出始めた-という人はいませんか。それは、もしかすると「百日咳」かもしれません。
「百日咳は子どもの病気でしょう。私は幼いころに予防接種を受けたから大丈夫」と思う人もいるでしょう。少し前までは誰もがそのように考えていました。
でも数年前から、大人の百日咳の流行が確認されるようになったのです。
効かなくなったワクチン
百日咳の予防には、3種混合ワクチンを乳幼児期に4回打ちます。通常は予防接種を受けると、その病原体に対する抗体が体の中で作られます。抗体価(抗体の量)がある程度以上あれば病原体の侵入を阻止でき、その病気にはかかりません。でも抗体価は接種から年を経ると次第に下がっていき、5〜10年もすると感染を阻止できなくなります。昔は、一度ワクチンを打つと抗体価が下がりきる前に同じ病原体に接する機会がありました。そしてその都度、抗体がたくさん作られて、高い抗体価を維持できていました。
でもワクチンの普及率が上がると病気そのものが激減して、病原体に接する機会がなくなり、ワクチンの効果を維持できなくなったのです。こうして大人にも百日咳が流行し始めました。
百日咳の症状
百日咳菌に感染すると、7〜10日の潜伏期の後、咳やくしゃみなど軽い風邪のような症状が起こります。熱はほとんどありません。これが約2週間続き、次第に咳がひどくなります。
次に、百日咳に特徴的な「コンコン、ヒュー」という発作性の咳を伴う痙咳期(けいがいき)となります。咳は夜間にひどく、免疫のない乳幼児では無呼吸発作からけいれん、呼吸停止に至ることもあります。痙咳期が2〜3週間続くと回復期となり、発作性の咳は次第になくなり2〜3カ月で終息します。
しかし、大人では特徴的な咳はみられず、長引くひどい咳のみとなります。このため百日咳とは気付かず、周囲に感染を広げてしまいがちです。特に6カ月未満の乳児や妊婦さんのいる環境では要注意です。

百日咳は適切な抗菌薬の内服で周囲への感染性はすぐになくなり、症状も軽快します。未来を担う子どもたちのためにも、咳エチケットの励行と早めの受診をお願いします。
浅岡 麻里(小児科医師=専門は小児科一般)