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001 パリ「サモトラケのニケ」〜門外不出 ルーブルの至宝〜

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 世界3大美術館の一つ、ルーブル美術館の至宝は「ミロのビーナスでもモナリザでもないよ。サモトラケのニケさ」と、美術館のスタッフの一人が私の耳元でささやいた。


 その訳は、ミロのビーナスもモナリザも国外に、そう日本にも貸し出されたことがあるが、ニケの像は門外不出だからだ。サモトラケのニケは台座を入れて高さ3・28メートル。船の舳先(へさき)に天から舞い降りた瞬間を表現した女神の彫刻だ。腰には厚手のドレープが巻かれている。胸元は薄い生地だけで透けていて身体の線が美しい。


 ニケは、古代ギリシャのロードス島の人々がシリア軍と戦って勝利した記念に、紀元前190年ころに神殿に祀ったといわれている。エーゲ海から吹き上げる風を受けて降り立った姿が、衣服の流れで伝わる。右足を前に、上半身をややねじる動きなどが特徴で、ギリシャ・ヘレニズム文化の最高傑作の一つだ。


 発見されたサモトラケ島はギリシャ・エーゲ海の北東部にある。1863年にエーゲ海を見下ろす丘の泉の一角で、フランスの考古学者によって無数の破片として発見された。当時のフランス領事は、その破片ごとルーブルに送った。胴体部だけで118個。それをジグソーパズルのように組み合わせて補強した。1870年には翼のない胴体から下のみの像で展示されたこともある。


 ルーブル美術館は三つの翼(館)からなる。リヴォリ通りに面するリシュリュー翼、セーヌ川に並行して長いグランド・ギャラリーを持つドノン翼、そして中央にはかつて王宮であったシュリー翼が"コの字"状に構えている。


 ニケの像はドノン翼の2階に上がる階段のてっぺんにある。これは当時の学芸員たちが、エーゲ海を見下ろす高台に祀ったイメージで飾ったからだ。天窓から差す自然光の下で舞うような姿を階段下から見上げる。この凝ったディスプレーも効果的だ。


 「NIKE」のつづりをアメリカのスポーツ・メーカーは「ナイキ」と読ませ、当時のバスケットボールの若手アスリートをイメージキャラクターに抜てきして、一躍トップメーカーに躍り出た。それがマイケル・ジョーダンだった。宙に舞うエア・ジョーダンと共に、ナイキのエア・シューズはダントツの人気商品となった。所属するシカゴ・ブルズも黄金期を迎え、まさに勝利の女神が舞い降りたようなシナリオだった。


 ナイキの、あのブランド・マーク=写真下=は、ニケの像の翼を表しているそうだ。レオナルド・ディカプリオ主演の映画『タイタニック』で、若い男女が舳先に立って両手を広げる、あの有名なシーンもニケの像をヒントにしているという。


 映画『ダ・ヴィンチ・コード』では、主人公のラングドン教授とイエス・キリストの末裔であるソフィーが、パリ警察の追手から逃れルーブルの階段を駆け降りるシーンの背後にはニケの像が立ち、2人の最終的な勝利を暗示しているようだ。

(2012年4月7日号掲載)

 
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