記事カテゴリ:

38 『神々と男たち』(2010年) 〜重厚な人間ドラマ見たいが

 Q 最近は子どもだましのような映画ばかりで辟易です。重厚な人間ドラマをじっくり見たいのですが。 


 A もともと見世物として誕生した映画ですから、派手なスペクタクルシーンはお約束とはいえ、最近の大作には食傷気味というのもうなずけます。各国の映画の作り方が似てきて、一層そんなふうに感じるのかもしれません。インドでメガヒットとなったラジニカーントの『ロボット』も、アクションとCGのてんこ盛り(もちろん、唐突な歌と踊りは健在ですが...)。


 でも、人々に深い感銘を与える重厚な人間ドラマも製作されています。きょうは静謐で力強いフランス映画を紹介しましょう。


38-cinema-p.jpg

 2010年に公開され、カンヌ映画祭でグランプリを獲得、セザール賞3部門受賞のほか、ヨーロッパ各国で高い評価を得て、米国メディアでも多くの称賛を受けたグザヴィエ・ボーヴォワ監督の『神々と男たち』です。


 悲劇的な実話に基づいていますが、語られるのは悲劇そのものではありません。舞台は1996年のアルジェリア。フランス人の神父や修道士たちが、祈りかつ働くトラピスト男子修道院です。


 アルジェリアはほぼ内戦状態で治安が悪化。政府軍の警備を断った修道者たちについに帰国勧告が出され、修道者たちは、修道院に留まるか、去るかの決断を迫られます。「死ぬためにここに来たのではない」と思う者、「ほかに行くべきところがない」と思う者、「自分たちを必要としている人々を捨てていけない」と思う者−。彼らは決して一枚岩ではありませんでした。極限の緊張の中で、悩みつつも日々の祈りと営みを続けるうち、降誕祭の夜、彼らはある奇跡的な出来事を経験します。


 苦悩の日々を通じて友愛と信仰の力に強められていく修道者たち。久しぶりに外からの物資が届き、全員で記念写真を撮った日の晩餐。彼らには、もはや迷いはありませんでした。


 アーメンの後にインシャラーを唱え、コーランを熟知し、常に私心なく、全ての人を平等に扱おうとする神父たちはイスラム教徒の中でも深い尊敬を受けていました。しかし、現実には16年前のきょう、6月2日、その7人の修道者の死を悼むミサがアフリカのノートルダム大聖堂で執り行われたのです。


 『マトリックス』シリーズで知られるランベール・ウィルソンが主人公を演じます。脚本、撮影、音楽ともに秀逸。勧善懲悪や政治・宗教の宣伝とは全く次元の異なる、命と信じる力、そして共生への希望の物語です。

 (2012年6月2日)

 
キネマなFAQ