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43 杜甫の律詩 〜珍しい書き写しの掛け軸

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 ご先祖さまが何代も続く旧家からは何が出てくるか分からない。安茂里小市の塚田興造さん宅からは佐久間象山の珍しい掛け軸=写真=が見つかり、地域の話題になっている。


 象山は漢詩作りにかけては、「(我が国で)俺の右に出る者はいない」と豪語するほどで、他人の漢詩を書き残すことはあまりないといわれる。それが、中国・唐代で活躍し、後世から「詩聖」と呼ばれる杜甫の五言律詩を書き写していたのだ。


 杜甫といえば、松尾芭蕉が生涯を通じて熱い尊敬の念を抱いた。有名な「春望」


 国破山河在

 城春草木深

 国破れて山河あり 

 城春にして草木深し


で始まる五言律詩を参考に、芭蕉は次の句を残している。


 〈夏草やつはものどもが夢のあと〉

 象山が残した杜甫の律詩を、長野漢詩会の宮崎真さんに解読してもらった。


 放船 

  送客蒼渓縣 

  山寒雨不開

  直愁騎馬滑

  故作放舟廻 

  青惜峰巒過 

  黄知橘柚来  

  江流大自在

  坐穏興悠哉 

  舟を放つ


客を送る蒼渓県

山寒くして雨開けず

直(しきり)に騎馬の滑らんことを愁え

故(ことさ)らに舟を放ちて廻(かえ)るを作(な)す

青は惜しむ峰巒(ほうらん)の過ぐるを

黄は知る橘柚(きつゆう)の来るを

江流は大(はなは)だ自在なり

坐穏かにして興は悠なる哉


 【通釈】私は旅人を蒼渓県まで送っていったが、山は寒く雨はちっとも晴れようとしない。いや全く馬に乗ったのでは道が滑るだろうと心配して、わざわざ舟を流れに放って帰ることにした。青い色は両岸の山々が通り過ぎてしまうことを惜しみ、黄色はミカンやユズが近づいて来るのだとわかる。川筋の旅ははなはだ自由なものだ。じっと座ったまま面白味は尽きない。


 塚田さんによると、古文書の専門家や幾多の教育者に、この漢詩を読んでほしいと依頼したが、誰一人として読めなかったという。