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京都01 嵐山〜桜の春を祝う

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 謡曲史跡の「宝庫」である京都へは、これまで何回か訪れ、2、3の史跡を紹介してきた。今回は締めくくりの意味もあって、リュックを背負っての一人旅。各所をじっくり巡ってきた。

   

 〈あらすじ〉

 嵐山の桜の下見にやってきた天皇の使いが桜を眺めていると、老人夫婦が現れ、木陰を清めたり、花に礼拝したりする。訳を聞くと「嵐山の桜は吉野山から移して植えたもので、吉野山の神である子守・勝手明神の神木である」と答え、「実は私どもはその夫婦の神だ」と言って消える。やがて2明神が登場して神楽を奏し、蔵王権現も加わって、栄えゆく春を祝う。

    

 京都市街の西にある嵐山は、桜の名所として知られる。ひと目千本、山中の桜を合わせると2000本ともいわれる。実はこの桜は、後嵯峨上皇が亀山に御所を造営した際、吉野の桜を居ながらに見たいと言って、移植したのが始まりとされている。


 鎌倉時代の続古今和歌集には、同上皇の「亀山の仙洞に吉野山の桜をあまた移し植え侍りしが、花の咲けるを見て」との前書きで「春ごとに思ひやられし三吉野の 花は今日こそ宿に咲きけれ」との和歌が載っている。


 謡曲「嵐山」はこれを題材としたもので、吉野の明神である子守、勝手の2神や、金峯山の蔵王権現も登場させて、めでたさと華やかさとを加えている。したがって、末尾にある「光も輝く千本(ちもと)の桜の、栄ゆく春こそ久かれ」の小謡は、もっぱら祝言の席での「お肴」として謡われている。


 嵐山へは、京都市内から市バスや、JR、京福電鉄嵐山線(通称・嵐電)などがあるが、交通渋滞を避けるには四条大宮からの嵐電が便利だ。終点の嵐山駅で降りると、すぐ左手に渡月橋がある。橋の上流が大堰(おおい)川、下流が桂川と呼ばれ、嵐山地区の中心地だ。対岸に嵐山が横たわり、麓に「十三まいりの寺」として知られる法輪寺、野生猿が生息する岩田山自然公園などがある。


 橋の手前側には、近くに高倉天皇の愛人である小督(こごう)が一時ひそんだ庵室跡。北へと広がる嵯峨野には、後嵯峨上皇が桜を眺めた亀山御所の跡といわれる天龍寺、源氏物語「賢木(さかき)の巻」の舞台である野宮神社など著名な寺社が点在している。


 嵐山は10年ほど前とは一変していた。目抜き通りには土産店や飲食店がびっしりと並び、車道にも観光客や修学旅行生があふれ、その間を人力車やレンタル自転車が行き交っていた。静寂で知られた嵯峨野も、俗化の波が著しいというべきだが、渡月橋から仰ぐ嵐山と、川の音は変わっていなかった。

(2011年7月23日号掲載)


写真=渡月橋と嵐山