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滋賀・京都02  白鬚(しらひげ)〜延命長寿の神

〈あらすじ〉

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 「竹生島」と同じく琵琶湖を舞台とした初能物で、物語も似ている。が、「竹生島」は小品で、初心者に広く親しまれているのに比べ、「白鬚」は難解で、あまり謡われていない。

 朝廷の勅使が琵琶湖畔の白鬚神社に参拝の途中、釣りをしている老人に会う。老人は釣りができる安らかな御代をたたえ、さらに白鬚明神について詳しく語る。

 勅使は常人ではないと思い、名を尋ねると「実は白鬚の明神だ。今夜、天燈龍燈の燈明の儀式があるので待つように」といって消える。夜になると、明神が現れ、続いて天女と竜神が出現し、儀式の後、夜明けまで舞楽を奏でてみせる。


 琵琶湖の西岸沿いに大津市から北に約33キロ。湖岸道路の国道161号線を走り、高島市に入ると突然、湖中に朱塗りの巨大な鳥居が出現した。「近江の厳島」とも呼ばれている白鬚神社の大鳥居=写真=だ。


 この大鳥居は古くからあったが、一時崩壊し、昭和に入って社記に基づいて復興された。さらに今の鳥居は1981年に再建されたもので、高さ12メートル、本柱の間隔が8メートルある。湖上交通の盛んなころ、舟からの参拝者の目印となってきたのだろう。岸には上りやすいようにと石段があった。


 道路を挟んで神社がある。神社の創建はおよそ2000年前。近江最古の大社といわれ、古事記や日本書紀に登場する猿田彦命が祭ってある。本殿は何回か造り替えられ、現在の建物は豊臣秀吉の遺命により、片桐且元が奉行となって1603(慶長8)年に再建したものだ。その且元書の棟札も残されており、本殿とともに国の重文に指定されている。


 本殿裏の高台に伊勢の内宮・外宮を祭る小さな社があり、その前に紫式部の歌碑がある。越前の国主に任命された父に従って通りかかった時の歌で、「三尾の海に綱引く民のてまもなく立ち居につけて都恋しも」。三尾の海とは今の明神崎で、この神社のある場所だ。湖岸で漁をする光景を見るにつけても、都が恋しくなったのだろう。高台に立つと、漁船が行き交い、同じような美しい風景が展開されていた。


 神社は白鬚の名前の通り、延命長寿の神として、また海上、陸上の交通安全の神として信仰され、その分霊社が鬚、髭、髯と文字は違うが全国に300社近くもある。社務所の資料だと長野県には、長野市鬼無里、同小鍋、佐久市鍛冶屋、軽井沢町茂沢、上田市丸子東内など8社あった。


 そのうちの一つ、長野市鬼無里の白髯神社を謡曲「紅葉狩」の取材で訪れたことがある。平維盛(これもり)が鬼女紅葉を退治する際、戦勝祈願で参拝したといわれる。階段を上りつめたとたん、灰色になった気品と威厳にあふれた本殿が眼前に飛び込み、圧倒された。室町時代後期の建造で、近江の本社より古く、むろん国の重文だ。


 地方の分霊社も多かれ少なかれ、こうした歴史と伝説に満ちているに違いない。県内だけでも「しらひげ巡り」をしてみても面白いと思った。

(2007年9月22日号掲載)

 
謡跡めぐり