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02 大日方ひの 〜大姥信仰に培われた気骨

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 大日方家が後生大事にしていた家宝の古文書が売却されたため、オオカミ退治の詳細は分からない。だが、後世になって多くの著名人が記述しているので、概略は分かる。「ひの」=写真=の身内の証言が『中条村のむかし語り』(村教育委員会発行)に載っているので紹介する。


 大日方たきい=幸高さんの母親(故人)=と、大日方よし=「ひの」の従姉妹「志満」の子孫(同)=が西山言葉丸出しで、要旨、次のように語っている。


 よしー「おれ(私)聞いてたことってのは、〈じゅん〉ていってた娘の17の時の話だ。佐久間象山から〈ひの〉って名前もらってから〈じゅん〉は〈ひの〉になったって」


 たきいー「おれも、そう聞いた」


 よしー「〈じゅん〉が背負子しょって、草刈りに行ってくるわいって。田植え時の5月19日の朝。そしたらまあ、"助けてくれ、助けてくれ"って声がしゅるってさえ。


 あの子に誰か所在(しょぜえ=いたずら)なしに構う者があるだろうかって、(志満が)跳んでったわえ。そしたら何と驚くことに〈じゅん〉が山犬にぶち乗って、山犬の両耳押さえて"助けて、助けて"って叫んでたって。〈志満〉はほっけて(放って)あった〈じゅん〉の鎌を手にとってな、めちゃくちゃに山犬の尻打って切り裂いたってわ。


 その時、松代様に仕えていた佐久間象山っていうのが、お医者でさえ、胸元を怪我した〈じゅん〉の傷の手当てをしてくれたってさ。象山は〈じゅん〉の気性を見込んで、是非嫁に欲しいって粘ったって」


 この話は民俗学者の柳田国男著『狼史雑話』にも掲載されている。「ひの」の孫、千賀蔵の筆になる「烈婦実談」では、オオカミは胡麻粕色。「ひの」は襟留めの銀製平打紋入りの楊子で歯ぐきを刺した。「志満」は「汝、不届奴よ、この虫倉大姥大神の氏子を何と心得るか」と叫びながら、何度も切りつけた。オオカミは首から尾の先までが1.8メートル近く、重さは約44キロ。


 オオカミに立ち向かった2人の女性の気骨は、大姥信仰に培われたのだろう。

(2010年10月9日掲載)

 
象山余聞