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京都07 土蜘蛛〜上品蓮台寺の頼光塚

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 〈あらすじ〉 

 原因不明の病気で寝ている源頼光の下に、侍女の胡蝶が薬を持ってくる。入れ替わりに怪しげな僧が現れる。名を尋ねると、いきなり蜘蛛になって頼光を捕らえようと糸を吹きかけてくる。頼光は名刀・膝丸で斬り付け、逃がしたが手応えはあった。家臣の独武者が血の跡をたどって追い掛け、巣の古塚を突きとめた。塚を崩すと土蜘蛛の精霊が躍り出し、千筋の糸を吹いて抵抗してきたが、従者と取り囲んで首を打ち落とした。

   

 平家物語の「剣の巻」を脚色した、作者不明の謡曲。「浮き立つ雲の行方をや...」と、いわくありげに登場する胡蝶は、土蜘蛛の回し者か。頼光の家臣に渡辺綱(わたなべのつな)や坂田金時(きんとき)ら豪傑が多いのに、独武者とは誰なのか。こうした分かりにくさはあるものの、派手に立ち回る舞台は人気がある。特に土蜘蛛が最後に糸を舞台いっぱいに投げる場面は、華やかで観客を喜ばせる。


 謡曲本は「幽玄の情趣はほとんどないが、能の発展段階で、この種のものが要求されたことがあり、今も求められている。謡曲は初心者向きの一つである」と解説している。


 土蜘蛛の史跡は京都に二つある。一つは、北区の千本通にある上品蓮台寺(じょうぼんれんだいじ)だ。その墓地の奥にムクの大木がそびえ、根元にこんもりとした塚があり、傍らに「源頼光朝臣塚」と刻んだ石碑が立っている。頼光の墓とか、土蜘蛛を退治した場所とかいわれている。平安時代の同寺は広大な敷地を持ち、西側に広がる蓮台野は葬送地だった。今は春ともなれば「紅しだれ桜」が咲き乱れるが、かつては不気味な場所だったようだ。


 もう一つの史跡は、上京区の北野天満宮の境内だ。正面の大きな石の鳥居をくぐり、参道を左に入ると東向観音寺がある。その本堂両側の片隅に50センチほどの石塔が3基並んでいる。土蜘蛛の墓だといわれている。

 北野天満宮といえば菅原道真を祭った神社で、「天神さま」と親しまれている学問の神さまだ。蜘蛛の化け物とは結び付かないが、この墓は江戸時代まで天満宮から少し離れた清和院前にあった。ところが、ここで猿楽などを催すと必ず雨が降った。一時、民家の庭に移されたことも、そこには不幸な出来事が続いたという。

 明治末期になって現在地に移された。以来、天神さまに厳しく監視されているのか、たたりやいたずらの類いは、なくなったといわれる。

(2011年11月12日号掲載)



写真=人気がある舞台