高齢の女性で、膣から何か出て膨らんできた、子宮が下りてきた-と訴える人は少なくありません。子宮が膣から脱出する子宮脱は知られていますが、膀胱が膣とともに脱出して膨らむ「膀胱瘤(膀胱脱)」も珍しくありません。
臓器が脱出し不快感
女性の下腹部にある膀胱、子宮、直腸、膣は、立った姿勢でも落ちてこないように骨盤の底を支える筋肉などで支えられています。骨盤底を支え、内臓の落下を防ぐ筋肉・靱帯・膣壁が緩むと、膀胱、子宮、直腸などが膣の中に落ち込み、膣壁と一緒に膣口から脱出します。このような状態を「骨盤臓器脱」と呼びます。
骨盤臓器脱の症状は(1)股に何か出てきたという不快感・異物感、何かが落ちるような下垂感。こすれることによる痛み(2)尿が出にくい、漏れるといった排尿障害(3)排便困難や便失禁(4)性生活の障害-が挙げられます。生命に危険はありませんが、不快感や前述した機能障害のために女性のQOL(生活の質)を低下させます。
膀胱瘤・骨盤臓器脱になる人のほとんどに経膣分娩の経験があります。出産時の骨盤底組織の過伸展や損傷に加え、閉経後の女性ホルモン分泌の低下や加齢で臓器を支える組織が弱くなることが原因と考えられています。また、肥満の人に多いようです。
膀胱瘤に対する治療は従来、膣内へのリング挿入や膣前壁形成手術が行われてきました。しかしリングには不快感があり、形成手術を行っても膀胱瘤が再発しやすいことから、治療成績は芳しくありませんでした。
新しい治療法が登場
数年前からメッシュ(合成繊維のガーゼ状の布)を膣壁の下に埋め込み、膀胱や子宮を支えて下垂を防ぐ「TVM手術(メッシュ利用膀胱脱手術)」=図=が行われるようになりました。多くの患者さんで脱出が解消または軽くなり、不快感が軽減した、排尿がしやすくなったという満足のいく結果が得られています。
ただし、メッシュは人工物ですので感染症や露出・びらんの発生という合併症の可能性もあります。また、尿が出にくくなった、尿が漏れやすくなった(腹圧性尿失禁)という人もいます。

脱出のある人はまず婦人科の受診をお勧めします。婦人科で脱出している臓器の診断を行い、メッシュ利用手術が望ましいか判断します。手術は婦人科・泌尿器科合同で行うこともあります。
膀胱瘤のようなQOLに関係する疾患では、治療の効果と合併症のリスクについて、医師とよく相談して治療方針を決めてください。
(2012年6月30日号掲載)
=写真=西沢 秀治(泌尿器科部長=専門は泌尿器科、小児泌尿器科)