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39 「八月の鯨」(1987) 〜高齢者が主人公の映画は?

 Q 新藤兼人監督の『午後の遺言状』を感慨深く見ました。高齢者を主人公にしたハッピーエンドの映画はないのでしょうか? 


 A 『午後の遺言状』は、1995年の日本の映画賞を総なめにした新藤監督の後期の代表作です。5月に帰天された監督を偲(しの)んであらためてご覧になったのでしょう。


 『午後の遺言状』のラストも一種のハッピーエンドかもしれません。老女優の蓉子(杉村春子)が棺の蓋にくぎを打つためにとっておいた石を、監督の愛妻、乙羽信子演じる別荘の管理人・豊子が川に投げ捨てる場面。生き抜くことへの力強いメッセージは100歳まで映画を撮り続けた新藤監督の命への思いとつながっています。


 最期のときを意識し始めた人々を描きながら、命の喜びと輝きをみずみずしく描いた秀作は少なからずありますが、1本だけご紹介するとすれば、やはり、この映画ではないでしょうか。


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 リンゼイ・アンダーソン監督の『八月の鯨』(1987年、米国)です。主演はリリアン・ギッシュとベティ・デイビス。ギッシュは1893年生まれですから、撮影時にとうに90歳を超えていました。ハリウッドでも75年以上映画に出演した女優は、そう多くはいません。デイビスは1908年生まれでデビューは30年。15歳年下のデイビスがこの映画の中では年上の役を演じています。


 舞台はアメリカ東海岸、メーン州の避暑地。親の代からの別荘に、共に夫に先立たれた老姉妹が暮らしています。目が不自由な姉のリビー(デイビス)は気難しくとげとげしていますが、妹のセーラは我慢強く、姉の世話をしながら人生を楽しもうとしていました。しかし、セーラが好意を寄せる自称ロシア貴族マラノフ(ヴィンセント・プライス)をディナーに招いた夕べ、リビーは彼を手痛く追い払ってしまいます。セーラは、生への積極性を失いかけている姉を持て余し、姉との決別を決断しかけるのですが...。


 ご安心ください。映画はしみじみとしたハッピーエンドへと続いていきます。


 映画の冒頭で若い3人の女性が、島の近くに姿を見せるクジラを見に走る場面がラストシーンと重なり、この映画の題名(原題も邦題と同じ)を忘れられないものとしています。


 興味深いことに、この2大女優の最後の主演作となった映画を最も高く評価したのは日本の観客でした。岩波ホール20周年記念上映作として公開され、製作者の予想を超えるロングランとなりました。『午後の遺言状』と比べながら、日米ベテラン女優の競演をお楽しみください。

(2012年7月7日号掲載)


=写真=『八月の鯨』 DVD発売元/ツイン DVD販売元/パラマウントジャパン 1500円


 
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