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009 パリ ガルニエ 〜客席天井にシャガールの絵〜

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 3月末に松本市美術館を訪れた。シャガール展を見るためだった。40年前に居住していた松本だが、町は様変わり。今では長野とは比べものにならないくらい垢抜けしている。館内で入場券1000円を払ってシャガールの作品を見た。


 シャガールは1887年、ロシアの寒村ビテブスクの生まれ。23歳のころ、彼の才能を見抜いた国会議員が奨学金を出してくれパリに出る。そこでモディリアニや藤田嗣治のほか、東欧系の人たちがエコール・ド・パリ(パリ派)の中心となった。1914年に許嫁のベラに会うためビテブスクに帰郷した、まさにそのとき第1次世界大戦が勃発。足止めを食らう。


 そこで翌年、ベラと結婚して幸福な時代に入った。この夢見心地の心情を描いた絵は、「散歩」「街の上へ」など、空を飛ぶシャガール独特の世界となって花開く。モスクワで描いた「ユダヤ劇場の壁画」も、松本の展覧会に出展されていた。


 パリのオペラ座はオペラ・ガルニエと呼ばれるが、正式には、パレ・ガルニエ(ガルニエ宮)。近年、バスティーユに新オペラ座ができたので、主にオペラ上演はそちらに譲り、ガルニエの方はバレエの公演が中心となっている。


 だが、『オペラ座の怪人』の舞台になったり、外観のバロックと古典様式の荘厳さから、今でもオペラ座というと知名度の点でガルニエに軍配が上がる。ガルニエとは、当時38歳だった無名の設計者の名前が冠された。


 7年前になるが、高校生20人を引率した時のこと。パリの5日間で「最も良かった所は?」と尋ねたら、圧倒的人気ナンバーワンがオペラ・ガルニエだった。


 絵画・彫刻を配したグラン・ホワイエ(大ホール)。5つの層からなる馬てい形の観客席が見事。ギャラリーは、ベルサイユ宮殿の鏡の間を模したシャンデリアや鏡の列に目まいを起こしそう。バルコニーからは中心街を見渡せる人気スポットだ。


 白眉が客席の天井を彩るシャガールの「夢の花束」=写真。オペラとバレエをモチーフに、シャガールの十八番"空飛ぶ天使"が赤い空間から抜け出てくる。天井を突き抜け、無限の大空に舞い上がるようだ。


 観客席などから見上げるシャガールの夢の世界は見る者、特に感性豊かな人を至福の世界へと優しく誘う。そんなシャガールを詩人アポリネールは「シュル・ナチュラリスト(超自然主義者)」と呼んだ。

(2012年8月11日号掲載)


 
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