記事カテゴリ:

16 北国街道 万坂峠 柏ケ峠 〜緑滴るブナ林がお出迎え〜

16-kizuna-0811p1.jpg

 梅雨の晴れ間を待って7月9日、関田山脈の西端、万坂(まんざか)峠から柏ケ峠へ歩く。


 早朝のJR信越線関山駅でコミュニティーバスに乗り換え、終点の上樽本(かみたるもと)で降りる。江戸初期に北国街道が整備されるまでは、ここ樽本を足場として斑尾山麓を抜ける斑尾街道が信濃と越後を結ぶ要路であった。


 久しぶりの青空に思い切り深呼吸して万坂峠を目指す。ホトトギスの鳴き声を楽しみながら、緩やかな車道をひたすら上る。4キロほどで遊森の郷「赤池」に着き、静かな水面とあふれる緑にホッとする。


 時々、呼吸を整えながら1時間半ほど足を進めると、斑尾山(1382メートル)と袴岳(1135メートル)の鞍部に、信越国境の万坂峠(925メートル)が構えている=写真上。東は飯山、西は柏原への分岐で、往昔の面影はないが大休止。


 懐に爽風を入れながら、かつてここを弾む心で過ぎた二つの旅姿に思いをはせる。1207年、鎌倉幕府に赦免された親鸞は関東地方伝道の大きな期待を持って、上越からここを西へ下り善光寺に向かった。


16-kizuna-0811p2.jpg

 また、1962(昭和37)年まで三味線を携えた盲目の女旅芸人高田瞽女たちが、1年ぶりの旧交を温めるため信州夏の巡業に旅立ち、ここを東へ下り飯山、さらに佐久地方へと足を延ばした。


 「道とは、いまいる場所から異界へ移動する場所である」


 信越トレイルの道標に導かれ、袴岳を目指す。山頂へは二つの大きなアップダウンがあり、信越トレイルクラブによる行き届いた登山道の手入れに感謝しながら軽やかな足取りを続ける。


 ダケカンバのトンネルを抜けると、いよいよ緑滴るブナの大群のお出迎えだ=同下。林床は初夏の花で彩られ、周囲を淡いグリーンで染め上げるブナは木の精霊であり、思わず合掌。


 かつてブナは重宝な薪炭材として伐り出されていた。今は生態環境学上の指標植物とされ、ブナの発する警告に同調することが我々生きとし生けるものの大きな課題である。ブナの木魂との出合いに気力はあふれ、一気に山頂に達する。


 袴岳は越後側からの山容が袴に似ていることから、その名がある。頂上から眼前に迫る霊峰・妙高山に向かい「3・11フクシマ」の一日も早い新生を妙高三社権現に祈願。土用を待ち兼ねた蝉時雨のシンフォニーを聴きながらの昼餉は格別だ。


16-kizuna-0811m.jpg

 北面の急な山道を下ると間もなく林道と合流。ここが柏ケ峠(910メートル)である。さらに西へ進み、桶海(おけみ)と古海(ふるみ)との分岐で関田の山並みを一望。澄み渡った青空と光り輝く緑の一日を与えられたことに感謝して野尻湖へ向かい、帰途に就いた。


 次は三水地区から斑尾山へ登る。「夏は来りぬ、夏は来ぬ」

(2012年8月11日号掲載)


 
絆の道