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40 「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」(2010年) 〜映画は社会に影響与える?

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 Q 映画は現実社会に影響を与えるといわれますが、本当でしょうか? 


 A はい。ナチス政権は映画を積極的に政治宣伝に利用しようとしましたし、今でもアメリカ軍が多くのハリウッド娯楽作に実際の兵器や人員を提供するのは、軍として一定のメリットがあると考えている証拠でしょう。


 国家や権力の宣伝ではなく、映画の主張が大衆に受け入れられ、現実の社会になんらかの影響を与えることも考えられます。


 昨年9月に起こった「ウォール街を占拠せよ」という運動を具体例に考えてみましょう。

 直接の影響関係は分かりませんが、人気俳優マット・デイモンがナレーターを務めた『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』(チャールズ・ファーガソン監督、2010年)という映画が思い浮かびます。


 08年に起こったリーマンショックの裏には何があったのか、インサイダーである関係者の証言で次々、明らかになります。下手なサスペンス映画よりはるかに刺激的なこのドキュメンタリーがアカデミー賞を獲り、多くのアメリカ人がその真実を知ったことが、1%に支配される99%として立ち上がった人々の運動で、広く共感を呼んだ背景の一つかもしれません。


 また、参加した人たちの多くがかぶっていたお面。あのお面は、06年に公開された『Vフォー・ヴァンデッタ』で使われたものです。元はイギリスの年中行事ガイ・フォークス・デイの仮装ですが、映画の中では主人公の反逆者V(『指輪物語』のヒューゴ・ウィービングが演じています)が全編を通してかぶっていて、彼に扇動され「ガイ・フォークスの日」に、全体主義政府へ反旗を翻して集まる大衆がこぞってかぶっているものなのです。


 頭をそってしまわねばならないヒロイン役を、自ら志願したナタリー・ポートマンが熱演しています。監督は、ジェームズ・マクティーグ。脚本は『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟ですが、先日のエリザベス女王即位60周年でもおなじみのイギリス国会議事堂が爆破される場面は、CGではなく、精密な模型を実際に爆破して撮影されました。


 原作も映画も、決してテロリズムを肯定しているわけではありません。ただ、イギリスやフランス、アメリカには、市民が自らの自由と正義のために立ち上がってこそ、歴史を前に進めていけるという認識があり、そこに触れる映画が見る人の心に響くのでしょう。今の日本と映画もそうだとうれしいのですが...。

(2012年8月4日号掲載)


=写真=『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』発売・販売元/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2980円


 
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